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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 ジャーディーと彼の娘 (8)

 
 これでブーはすべてを話し終えたようだったが、それ以上泣くことはなかった。ただ彼女は苦しかった過去を思い出しているのか、テーブルの上にある灯油ランプの炎を、ただ呆然と眺めているのであった。

 私は彼女が可哀想で、思わず長いため息を漏らしていた。そして、彼女の顔の上の大きな傷を見ながら、

「銭家はしょっちゅうあなたに暴力をふるうのね。そうじゃない?」と聞いてみた。

 ブーは上目遣いに私を見ている。口が何度かぶるぶると痙攣した。眼の涙は湧き出るように溢れて、そのまま頬を伝っていく。

 「顔のその傷は、銭家の人にナイフで切られたんじゃないかしら?」

 ブーは頷き、言葉を詰まらせながら低い声で答えた。

「銭家の長男、鉛筆を削る新しいナイフで斬りつけてきたの……」

 私の心臓の強い鼓動が顔まで這い上ってくるようである。こんなに深くて大きな傷を、しかも女の子の顔の上に刻むなんて!よくそんなことができたものである。

 「銭家の長男って、もしかして、|銭貴金《チィェングイジン》じゃない?」

私は憤りを抑えきれなくなってきた。銭貴金といえば、私が受け持っている学級にいる、非常にできが悪くて有名な生徒である。

 「ふん!私が明日あの子にたっぷりお灸を据えてやるわ」

 「やめてよ先生、それはだめだよ!」ブーはそんなことをしないでくれと延々頼み続けるのであった。

 「それで、もう一つの手の上の傷もあの子がやったのね?」

 「違う。こっちはあの子のお母さんが阿片を吸う煙管でぶったの」

 まったくもって、この親にしてこの子ありである。なんと言ったらいいのだろうか。息子に対する無益な説諭は、おそらく徒労に終わり、そればかりかもっとひどい暴力の引き金となるだけなのであった。

 しばらくの間、二人の沈黙が続いた。だが、ブーが眼を輝かせていきなり私に言うのであった。

「先生。父ちゃんが言ってた。先生は世界で一番心のきれいな人だって。先生、私を助けて。私、この家の仕事は何でもやるから。私、本当に一所懸命やるから!」

 この世界には人を虐待する人間がいるが、その虐待される人にまったく何の落ち度もないことがあるものだ。ただ眼に止まって、その存在が目障りだと感じただけで虐待することもある。まるで狼が羊を見る眼と同じである。

 ……私はたしかにあなたが言うように善良な心を持っているかもしれない。でもね、あなたにわかるかしら。私も所詮は一人の怯懦で無能な人間にすぎないことを。

 ……私はどうすればあなたを助けられるのだろう。私は異境に漂う流浪の人間にすぎないのに。貧しく、身分は低く、私の言葉には何の重みもない。手を尽くしても、ほんのちょっとの力にしかなれないの。

 ……本当に可哀想なブー。私はどう言えばいいのだろう。



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