スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 ジャーディーと彼の娘 (7)

 
 この子は両手で怯えたように顔を覆った。シャツの袖が取れそうで取れない感じで腕に絡みついていて、こんどはその露わになった二の腕に、炎症を起こして化膿したたくさんの切り傷があった。私はこの子が可哀想になって、「あらまあ。あなた、どこかの家に買われたアカ族の子供じゃないの!そこから逃げ出してきたんじゃないの?」と聞いた。

 その子はさらに怯えながら低く項垂れて、声を出そうとしない。

 「ねえ、どうして何も言わないの?」私は少し焦れてきた。

「ちゃんと話してちょうだい。主人の家に送り返すようなことはしないから」

 その子は一時黙り込んでしまったが、頭を上げて、私に許しや憐れみを乞うような種類の眼を向けた。そしてまたうなだれて、ほとんど聞き取れないような小声で、「ジャーディーは私の父ちゃんなの……」と言った。

 「あら。あなたはジャーディーのお子さんだったの!」

私はあまりの意外に驚いてしまった。

「あなた、誰かに買われたの、それともどこかの家に奉公に出ているの?」

 この子はぐずぐずと泣き出し、そして、声にならないような鳴き声で、「私は売られたの」と言った。

 私はその言葉に一瞬気が遠くなるようだった。「おかしいわねぇ。この子のお父さんは阿片も吸わないし、仕事だってあんなに活き活きとやれる。どうしてこの子を売らなければならなくなったのだろう……」私は一人ぶつぶつ言っていた。

 するとその子はわーっと泣き出した。その泣き声は鬱屈していて、悲しみに溢れている。

 「わかったわ。起きなさい。まずは家の中に入って!」

ここで話していてもはっきりしない。思わず大きなため息が出た。

 この子は嗚咽をあげながらも私の言うことを聞いて身を起こし、この子を母屋に連れて行った。そして、たっぷりと濃厚に溶かした熱々のオバルチンを淹れ、ビスケットを取り出してこの子に与えた。

 この子はまだ項垂れていて、まだ少し躊躇しながらも、自らの涙声をぐっと飲み込んだ。飢えも渇きも限界に達していたようだ。

 「あなたお名前は?」私は聞いてみた。

 「ブーっていうの」

 「ブーって、それじゃあ、あなたは女の子なの?」

 ブーは頷いた。この子の頭髪はとても短く刈られている。私はあらためてこの子を注意深く観察してみると、この子、いや彼女は、とても美しい大きな黒い瞳をしている。

 彼女がお腹も喉も一段落した時を見計らい、私は消炎薬粉を持ってきて彼女の傷口に振りかけてあげた。私は耐えきれなくなって聞いた。

「ブー、あなたのお父さんは、どうしてあなたを売ることになったのかしら。それに、どこの家に売られてしまったの?」

 彼女は短く「|銭《チィェン》家」とだけ答えた。

 彼女は少しずつ自分の身の上を語り始めた。私はそれを聞いているうちに、この子の中国語がだいぶ流暢であることに気付いたのだった。

 もともとはこういうことであった。一昨年、まだ農作物の収穫前のことだった。銭家は種籾を放出した。ジャーディーは訳あって銭家から桶十個の種籾を借りていた。そのときの条件は、収穫が終わったら種籾一に対して穀物十の比率で償還することであった。だが、その次の年の秋ごろ、タイ北部に大量の田鼠が発生した。実りかけの穀物は、どこからやってきたともわからない、この何千何万という田鼠たちにすっかり食べ尽くされてしまったのであった。そしてちょうどその年の雨季にブーの母親は破傷風を患って病死してしまう。こうして、銭家に償還するはずだった桶百個分の穀物と引き替えに、ブーが奴隷となって差し出されたというわけだ。




ジャーディーと彼の娘 (8)へ




関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。