シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 ジャーディーと彼の娘 (6)

 
 夏と秋の境目のある夜のことだった。あたりはすでに真っ暗になっていて、小雨がしとしとと降り続いていた。私は毛布を被ってベッドの縁にへばりつきながら本を読んでいた。子供たちはすでに熟睡している。夫はいつものように麻雀の試合で、晩飯の時間になっても帰ってくることはない。

 そんなときであった。外で飼っている我が家の犬|炭灰《タンホイ》が、ずっと吠え続けている。私はあまり考えずに犬をどやしつけた。

「こらっ、炭灰。何が気に入らないのよ。風で草が揺れるたびにいちいち吠えるんじゃないわよ。こんど吠えたら出て行って蹴りをお見舞いするわよ!」

 だが私が叱っても、炭灰はまったくお構いなしで吠え続け、家の外を忠実に守っているようであった。どうやら招かれざる客が我が家にやってきているようであった。あるときは夜になって家に帰り着けないでいる馬だったり、あるときは山林から出てきた山鼠などの小動物であったり、またあるときはこがね虫であったりしたこともある。

 しかし、今晩の炭灰の興奮したように声を張り上げる吠え方は特別だった。一体この犬はどうしてしまったのであろうか。

 私は仕方なくベッドから這い出て、懐中電灯を手にして家の外を照らしてみた。炭灰は家の外にある便所の真ん前でひたすら吠え立てている。私が家から出て便所の戸を開けてみると、炭灰は矢のように勢いよく中へ飛び込んでいった。すると、便所の中から耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきたのであった。

 懐中電灯で明るくしてみると、十歳ぐらいのアカ族の子供がうずくまり、便器の横でびしょ濡れの身体を震わせているのが見えた。

 炭灰は吠えながら、その子の衣服に噛みついて、外へ引っ張り出そうとしている。その子は驚きと恐怖で泣き震えている。

 「炭灰、放しなさい。早く放さないと殺すわよ!」

私は炭灰を怒鳴りつけ、そのまま急いで炭灰を蹴りつけて、それでもまだ足りないようなので、懐中電灯で炭灰の頭を殴った。強く叱られた炭灰は仕方なく歯ぎしりし、嫌々ながら後退した。

 「あなたはどこのお子さんなの?どうしてうちまで逃げてきたの?犬が噛んで怪我をさせてないかしら?」

私はそう言いながらしゃがみ込んで、この子の身体に咬み傷がないか確認した。

 その子は相変わらず震えが止まらない様子であったが、涙混じりの小さな声で、

「いいえ。犬には噛まれてない。でもこの犬にびっくりしたの……」

 「本当にどこも噛まれていないのね?」

私はほっとしたが、安心できずにまた念を押すように聞いた。

「本当なのね?」

 私は懐中電灯の灯りを頼りにこの子の身体に傷がないか仔細に見ていった。この子は黒くて痩せた子供で、栄養不足のような感じに痩けている左頬に、長さ二寸ほどの深い切り傷が一つ見られた。そしてその傷口は炎症を起こしている。

「あなた、この傷はどうしたの?」私は驚いて聞いた。



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