シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 ジャーディーと彼の娘 (5)

 
 それから数日が過ぎた。小雨がしとしとと降る夕方の頃合いに、ビニールシートをかぶったずぶ濡れのジャーディーが突然現れた。そして台所まで入ってくると、大きなバナナの葉で包んだ名も知らない野菜を私に手渡した。その野菜は蕨のようで蕨でない。だが、細長くて柔らかく、緑色がとても鮮やかだ。だが先端は蕨のよう小さくくるくると丸まっているのであった。

 「先生。この野菜はおいしいです。ほら、いい香りです」

ジャーディーはそう言ったが、顔には相変わらず、あの、見る者に憐れみを起こさせる笑顔をたっぷりと浮かべているのであった。

 「いくらで売ってくれるのかしら?」私はその野菜を受け取りながら聞いた。

 「お金、いりません。これは先生に差し上げようと思って持ってきたんです」ジャーディーは嬉しそうに言う。

 「だめよそんなの。あなたがこの雨の中、わざわざ取りに行ってくれたものを、ただで貰うなんて申し訳なくてとてもできないわよ」私は五バーツを彼に渡そうとした。

 だがジャーディーは固辞して受け取ろうとせず、その五バーツを押し返してきた。だが私は「あなたがお金を受け取らないなら、私もこの野菜を受け取れないわ」などと、思わず口走ってしまったのであった。

 それを聞いた彼の笑顔は、みるみるうちに凍り付いてしまった。彼は眼を凝らして私をじっと見つめること数秒、その眼の中には失望と慌てている心が見えていた。

 「先生。これは私の気持ちなんです!」彼は舌足らずなので、自分の胸を指さしながらそう言った。アカ族は、少なくない人から、まるで山地の劣等民族のように考えられているようだったが、彼のように心のこもった好意の示し方ができる人だって、ちゃんと存在しているのである。

 たしかに彼の言うとおりなのだった。たった五バーツとはいえ、アカ族にとってはこれは小さくない金額なのだ。だが、しかしこのときのジャーディーの心の中には、情意はあっても金銭のことはまるでなかったのである。それに、たった五バーツの現金で、人の心が買えると考えていたのなら、それはむしろ私の思い上がりであろう。彼の気持ちを考えれば、このバナナの葉に包まれた野菜は、いかなる山海の珍味よりも価値があるものなのであった。

 これ以上彼の好意に逆らうのは、決していいことではないと察した。私はしぶしぶながら、この野菜を受け取ることにしたのであった。

 それを知ったジャーディーの苦労顔には、また微笑みが甦ってきた。ある種、受け取って貰うことで、自分の気持ちをわかってもらえたという、彼の心からの満足が感じられた。そしてそのことで、彼は気持ちよく帰路についたのであった。

 彼が帰ってから、私はその野菜を包みから出してきれいに洗い、一寸ほどの長さに切りそろえた。まず湯通ししてあくを抜き、多めの油を火に掛けて生姜とニンニクを先に炒めて香りを出してから、強火で炒め合わせて大皿の炒め物を作った。食べてみるとこれはなかなかおいしいもので、娘たちも競い合うように食べた。

 あとで聞いたのだが、この野菜は滅多に手に入らない珍しい野菜であり、値段も結構張るらしい。ジャーディーが持ってきてくれたのは、実際そういう野菜なのであった。

 それからというもの、十日から二週間ほどの間隔を空けて、ジャーディーは自分から我が家の草刈りの手伝いと、庭の整理に来るようになった。少しずつだが、私たちの往来も頻繁になってきた。ジャーディーは「よく弁えた付き合い方」をしていて、いつも純朴な天性が感じられるようであった。


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