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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 ジャーディーと彼の娘 (3)

 
 「ジャーディー。一休みしてお茶でも召し上がれ」

彼の作業を見ていた私は思わずそう言ってしまった。そして彼のために急須にいっぱい茶を入れてあげた。

 彼は頭を上げたが、ある種訝しげな眼で私を見ながら、不思議そうな顔をして、なかなか上がってこようとしないのであった。

 私はもう一度彼に声をかけた。

「ジャーディー。こちらにいらっしゃい。一休みしてからまたやればいいわ!」

 私がしつこく声を掛け続けるので、彼は鎌を置いて上がってきて、茶を飲むしかないのであった。

 彼はもじもじしながら我が家の客間に入ってきた。促されるままに椅子に腰掛けた。だが、私がきれいな湯飲みに茶を入れてあげたのを見て、彼はすぐさま辿々しい中国語で

「あああ、私の湯飲みはもっと汚くて古いものに換えてください。私は、私は……」と言っている。

 「いいのよ、そのままで。その湯飲みで飲んでくださいな」

私もまたそのガラスの湯飲みに固執して、それを彼の眼の前に押し出した。

 ジャーディーはどうしてよいかわからない様子だが、自分の両手を衣服に何度もこすりつけてから、注意深くその湯飲みを受け取り、まるで茶を息とともに吸い込むかように一口一口飲み始めた。彼は絶対に自分の口を湯飲みに付けようとはしないのである。

 私は思わず憐れむように彼の様子を注視していたが、そのとき心の中で軽い溜め息を付いていた。彼は自分自身をとことん卑下しているのではないか。あるいは、彼もまた私の目に映る自分自身を卑しい者と勘違いしているのかもしれないのであった。

 彼は湯飲みの茶を啜り飲むと、起ち上がってまた草刈りの作業に戻って行った。だがその前に、私は彼にフィルター付きのたばこを数本手渡し、一服するように勧めた。

 ジャーディーは両手で恭しくそのたばこを受け取ると、珍しいものでも手に入れたかのように、衣服のポケットにそっとしまい込んだ。そして一本だけ丁寧に取りだして火を付けた。彼は注意深く、ゆっくりと煙を吐いている。そして顔には見る者の憐れみを誘うようなあの笑顔を終始絶やさずにいる。

 人によくされると逆に居心地が悪くなる。そして、とても実直で真面目な様子。私はそうした彼の態度を見ているうちに、こんどは自分自身が高利貸しになったような卑劣な感覚に襲われた。それに、私は本音から彼に一休みして欲しかっただけなのに、だがそれが却って、彼を感激させて、さらに力んで作業に勤しむようにさせてしまう。当然といえば当然なのだが、これではいつまでたってもこのままである。

 「ジャーディー。ゆっくりでいいからね。急ぐことはないからね」私は家から出て行ってそう言った。「今日できなければ、また明日やればいいんだから」

 ジャーディーは頭を上げると、眼を合わせずに私に笑いかけている。一言も返さず、ただ黙々と草刈りを続けている。

 やがて昼前になり、私は冷麺を作った。聞くところでは、アカ族は唐辛子が大好物であるという。私はジャーディの分には溢れんばかりの辣油を掛けてあげた。それから冷やした鶏スープとその他の具を載せ、しっかり和えてからジャーディーに食べさせた。もちろん、私たちがなんと言おうと、彼は絶対に私たちと食卓を共にしようとはしなかった。彼はその冷麺を受け取ると、家の外のたたきに座って、慣れない手つきで箸を使って冷麺を食べている。

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