シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 養子・痩馬・秋夜 (8)

 
 生徒たちはさらに興奮し始めている。みな友好的な眼差しで後ろを振り返り、孫光泰をじっと見つめている。みな口々に「ええっ、うそぉ。孫光泰のやつ、すげえなぁ!」などと言い合っている。

 孫光泰は、いったい今までこのような形でみなから賞賛されたことなどあるのだろうか。明らかに感動を隠しきれない様子で、手足の動きはぴたっと止まったまま照れて笑っている。彼が照れ笑いをするこの様子を見て、彼に憎しみを抱く者は皆無であろう。

 「ねぇ、孫光泰君。ちょっと起ち上がって説明してくれませんか。君はどうやってその二匹のサソリを手懐けたのかしら?」私はにこやかに、そして、彼を励ますように言った。

 孫光泰はみなからこのように持ち上げられて驚いている。恥ずかしさで顔が真っ赤に腫れ上がっている。ただ相変わらず照れ笑いだけを続けていて、なかなか起ち上がろうとしないのである。

 「いいですか。みなさん、拍手で彼を迎えましょう!」

 学級の生徒たち全員が、熱い拍手で彼を促すのだが、孫光泰はなおも起ち上がろうとしない。私はさらに追い打ちを掛けるように故意に煽った。「あれれ?孫光泰君?君は死ぬことはちっとも怖くないのに、人前に出るのが恥ずかしいわけ?」

 これにはさすがの孫光泰も奮い立ったようである。彼は恥ずかしさを振り切って起ち上がり、カワ族らしい「山に登れば虎を伏せ、海に下っては龍を捕らえる」がごとき英雄の風格を堂々と晒した。だが早口でぼそぼそと「言っちまえば簡単なのさ。おいらはこのサソリの毒腺を抜いておいたんだ。だから、こいつに噛まれても平気なのさ!」

 「へぇ。それはまた難しいんじゃない?孫光泰以外の人間には、そんな恐ろしいことができる人なんていないと思うわ!」実は私は心の底からそう思って褒めていたのである。

 「それがどうしたってんだい。おいらたちカワ族なら、このぐらいのことは誰にでもできるんだぜ!」孫光泰は胸を張ってそう言った。

 「本当なの?」私は驚いて見せた。「こういう大サソリを漬け込んで薬酒を造ると、いろいろな病気に効くんじゃないかしら?たとえば、よくわからない腫れ物ができたときなんかにそれを塗ると効果があるでしょう。毒蛇に噛まれた人がそれを飲むと解毒作用があるともいいます。幅広い効能があるはずなのよ。その二匹のサソリで薬酒を作りたいので、そのサソリを私にいただけないかしら?」

 「もちろんくれてやるともさ。でもな、先生。先生がこいつを扱うのは難しいぜ。ちょっと待ってろよ。おいらがいま瓶に入れてやるからな!」孫光泰は私の言っている意味を好意に解釈してくれたようである。

 「あらまぁ。本当にそうしてくれると助かるわ。先生は君に心からお礼を言います」実は私は心の中ではじゅうぶん感動していたのであった。

 孫光泰は満足気に笑っているが、その表情はすでに従順でさえある。

 私は教壇を降りて行って彼の前に立ち、その二匹のサソリを眺めている。そして、話し合うような口調で彼に切り出した。「ねえ、私たちの学級には五十人以上の生徒がいるけど、君だけがこんなすごいことができるのよ。これはなかなかできないことだと思わない?でもね、みんなも先生と同じで、蛇だとかサソリだとかは苦手なのよ。だからね、これからは、こういう怖い毒サソリなどは学校に持ってこないようにした方がいいと思わない?」

 「う、うん。わかったよ……」孫光泰は、心から納得したようにそう答えた。両眼が生き生きと輝いているように見える。重荷が取れたような眼をしている。

 このことがあってから、彼は非常に言うことをよく聞く生徒に変わっていった。それからというもの、熱心に騒ぎを起こすということもなくなっていった。とはいえ、生まれついての性分はそう簡単に変わるものでもないだろうし、それほど容易に骨抜きにされることもないだろう。とくに、別の教科などで他の教師に責められたりすれば、今までの態度はまたあっさりと表れてしまうのである。たとえば、サソリ事件のあとしばらくして、彼は何千匹もの毛虫を教室に持ち込んで、授業を混乱に陥れるという新記録を樹立している。彼は相変わらず勉強が嫌いなままであって、いまでもやはり無断欠席や授業をさぼるのは日常茶飯事なのであった。

 それでも、私は信じていた。前向きに、じっくりと彼を感化していけば、この子はきっとよくなるに違いないのだ。



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