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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 養子・痩馬・秋夜 (7)

 
 翌日の午後の授業の時、私は教室に入ると、いつもは教室の後ろの二列に座っている男女の生徒たちが、揃って前列の座席に座っていた。ただ一人、孫光泰だけが最後列に鎮座している。彼は虎視眈々と私の様子を窺っており、挑戦的な含みを持たせながら、依然としてあの得体の知れない不敵な笑顔を浮かべている。

 私は何も起こっていないかのように振る舞い、いつものように教室全体を見回した。心の中では、この悪がきは最後列の席で大便をしているのではないか……、まったく文明を知らないこの未開の野人め……、などと思っているのだが、そうした怒りの気持ちは胸の奥に深くしまい込み、ごく自然に呼吸を整えた。

 だが、私の眼を捉えて放さなかったのは、孫光泰の机の上でうろうろしている箸よりも長そうな二匹のサソリであった。サソリは一本のひもで繋がれているだけで、そのほかは自由に動けるようになっている。サソリが動いて机の端まで来ると、孫光泰はそのサソリを机の中央まで引き戻すのであった。

 この悪がきめ、そういうことだったのか。私は思わずひやりとした。だが、この子はこうした毒を持つ大きなサソリを手で触っても怖くはないのであろうか。

 私が歩いてくるのを見た孫光泰の顔に得意気な表情がちらりと写った。その上わざとらしく咳払いなどして、私の注意を引こうとしている。

 私は相変わらず何も眼に入っていないふりをして、静まりかえった教室の中を歩いた。あらためて全学級の生徒たちの方へ向き直ると、孫光泰が、こんどはその二匹のサソリを自分の身体の上にのせて遊んでいるのが見えた。一匹はちょうど胸のあたりに、そしてもう一匹は腕のあたりをよじ登っている。これを見た私は、内心では怒髪天を衝くがごとしであった。しかし、孫光泰がこうして遊んでいても平気なのにはきっと何か裏があるに違いないと信じていたので、それでも彼の挙動が眼に入らないふりをし続けている。

 私のこうした淡々とした態度は、彼を少々がっかりさせたようであった。

 そして私はとても柔らかい口調で口火を切った。「昨日私は孫光泰君の家を訪問しました……」よし、見ていろよ。このがき。彼は私がまた説教を垂れるはずだと思い込んでいて、背筋をぴっと伸ばして応戦の準備を整えている。サソリは相変わらず自由に彼の身体の上を動き回っていて、一匹は皮膚が露出している彼の首のあたりをうろうろしており、もう一匹は彼の肩の辺りによじ登ったところであった。

 本音を言えば、私は心の中では、彼がこの毒サソリを生徒たちのいるあたりめがけて放り投げるのではないかとはらはらしていたのである。だが、それでもまたぐっと堪えて、その二匹のサソリが眼に入らないふりをし続けて、顔色を変えることなく言葉を続けた。「みなさん、知っていますか?孫光泰君は、家に帰ると家の仕事をとても真面目にやっているんです!」

 悪がきが慌て始めている。意外中の意外という表情が明らかに浮き出ているのがわかる。眼の奥に見えていた警戒の念は、明らかに困惑で慌てふためいている念に変わっている。

 私は依然として泰然自若に話を続けていた。「彼は、お父さんを手伝って、馬を散歩させたり、飼い葉を刈ったり、薪を割ってご飯を炊いて、その上、衣服の洗濯までしているのですよ」

 二匹のサソリはいつのまにかそっと引きずり下ろされている。

 「実は、孫光泰君は、私たちが知らないすごい能力をたくさん持っている生徒なんです。たとえば、彼は素手でサソリを捕まえていますね。みんなにはそんなすごいことができますか?」私は心持ち声を張り上げて生徒たちに問いかけた。

 「できませーん」生徒たちは大きな声で答え、後ろの方を振り返った。若干怯えながらも、どこか心服しているといった面持ちで孫光泰を見ているようだ。あの二匹のサソリはいつの間にか孫光泰の机の上を行ったり来たりしていて、だが彼は相変わらず素手でこの二匹のサソリを弄くっているのであった。しかし、衆人が見つめる中、孫光泰は不安がちで忸怩たる笑いを浮かべている。彼はこのように英雄として人から崇拝の眼で眺められることにまるで慣れていないのであった。彼の真っ黒に焼けた顔には、めずらしく照れているような赤みが差しているのがわかる。

 「みなさんはできません。そうですよね。でも見てください。孫光泰君は、とても勇敢で智慧のある生徒ですね。なぜ彼が智慧を持っていると思いますか。それは、かれはサソリをあのように自由に扱う方法を知っているからですね。私たちにはこんな才能はありません」



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