シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 養子・痩馬・秋夜 (5)

 
 孫おじさんがこの子をじゅうぶん溺愛していることは手に取るようにわかる。彼はこのカワ族の養子の今後の身の振りに、少なくない希望と慰めを求めているのであった。

 そして、学校での彼を知っている私には考えられないことだが、この孫光泰は家では意外にもおとなしいのであった。彼はいつも、食後には食器を洗い、竹筒を担いで小川に水を汲みに行く。孫おじさんが言うには、「あいつは学校から帰ってくると、馬を連れて散歩させ、飼い葉を刈りに行く。そうでなければ山に薪を切りに行き、飯を作るんじゃよ。あれはあれで、なかなかよく働くのじゃ」とのことである。

 あるいはこの父親が孫光泰に対してよくしているからこそ、この子はこの歳老いた老父の世話をすることが自分に課された使命であると感じているのかもしれなかった。さもなければ、この子はさっさと家を飛び出してしまっていたであろう。彼にとってもっとも耐え難いのは、おそらく、父親に学校へ行かせられるという、彼にとってのこの世の生き地獄であるからだ。

 孫おじさんが孫光泰を学校へと追い立てる手段は、棒で殴って怒鳴りつけるというような感じではなく、小さな声でぼそぼそと哀願するというものであった。あるとき、孫光泰がどうあっても学校へ行きたくないと粘ったときは、涙をぼろぼろ流して土下座したこともあったらしい。以前に孫光泰が十日から二十日近くも学校をさぼったあとに、突然教室に姿を現したことがあったが、どうやらこの話はそのときのいきさつであるらしかった。

 孫光泰は、依然として私に対する敵意をむき出しにしている。どうやら私が学校での悪事の数々を告げ口に来ていると信じて疑わない様子であった。もっとも、この父親に溺愛されていることを知っている彼としては、私の来訪などまるで恐れるに足りないものであるかのようであった。彼は水汲みから帰ってくると、水が入った竹筒を家の入り口近くの壁に立てかけ、挑発的な眼光で私を見つめている。そして堂々と勝ち誇ったような口調で、「父ちゃん、飴を買ってくるから一バーツおくれ」と、この父親に言うのであった。

 私には彼が本当に飴がほしいわけではないことがわかっていた。彼は、孫おじさんというこの父親が自分の思いどおりになるということと、この父親にはどうすることもできず、したがって、告げ口も無駄な努力に終わるということを、私にわからせたかっただけなのである。

 孫おじさんは慈しみに満ちた声色を使い、まるで相談するかのような口調で、この養子に「よい子や。一バーツあげるから、飴でも買っておいで。飴じゃなくても、小腹が空いていたら、なにか他の食べ物でもいいんじゃよ」などと、こんなふうに言いながらなお、小銭を探しているのか、ズボンのポケットをまさぐっている。

 私はハンドバッグを開けて、五バーツ硬貨を取り出して孫光泰に渡した。孫光泰はその硬貨をつかみ取ると、まるで与えるのが当然であるかのような態度で、一言の礼すらいわずに飛ぶように駆けだしていった。その振動で家全体が大きく揺れた。

 「おやおや。この子はまったく。先生、どうか一つここはわしに免じて許してくだされ。カワ族の子供は我々漢族のようにはいかんのです」さらに、孫おじさんは感慨深げに言うのである。「なんといいますか、カワ族たちが子供を躾ける方法というのが、我々漢族と大きく違うんですよ」

 孫おじさんは私に言い含めるように訥々と語った。「カワ族の女性は、午前に子供を産んだら午後にはその子を背負って山に登り、柴を刈り、または川に降りて魚を捕ります。生まれたての赤ん坊でも、山の湧き水に連れて行って冷水で身体を洗うんですよ」

 「子供が風邪を引いたりしないんですか?」

 「カワ族が言うには、もし天の意思が、その子が大人になるまで成長すると考えていれば、その子にはなんの問題もないというわけなんです。反対に、もし天の意思がその子を生かしたくないと考えていれば、冷水で水浴びしただけでその子はすぐ病気になってしまうだろうし、それで死んでしまったら、その子はそれまでということです。彼らはまったく気にしやしませんよ」孫おじさんは続けて言う、「そうして生き残ったカワ族の子供たちは、一人一人が壮健で力強いのですな」


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