シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 養子・痩馬・秋夜 (2)

 
 私は鼻息が荒くなるほど怒っていが、なにもできずに彼の裸足の足を見ているしかなかった。彼は靴というものを穿いたことがない。山の方へ失踪してそのまま草むらに入り込み、そのまま跡形もなく失踪してしまった。

 この孫光泰といえば、五年生の学級を受け持つ教師たちで、頭を痛めていない者はおよそ皆無であった。このできの悪い悪魔のような少年は、これまで一度も真面目に勉強をしたことがないのであった。それに、何回も留年を繰り返しているので、学級では最年長になってしまっている。生徒たちの中では抜きん出て粗野であり、その拳は恐ろしく逞しい。

 当然、生徒たちも彼を恐れている。教師たちももてあましていたし、彼は学校から何度も処罰を受けているのだ。だが、彼が退役した軍人の家族であるため、除籍することだけはためらわれた。そして彼はこのことを意識しているのか、彼が思いつくありとあらゆる悪事を実行に移す。それはまるで学校から放校処分を受けることを狙っているようでさえあった。

 彼は勉強というものにまるでこれっぽちの興味もなく、それゆえ日常的なさぼりなどは、いちいち説明するまでもないほどに当たり前のこととなっている。彼はただ父親から学校に行けと追い立てられているので、仕方なく学校へ来るしかなかったというわけなのである。

 ある日の朝、いつものように授業開始の鐘が鳴った。だが、なぜか五年生の生徒たち全員が教室の入り口に立っていて、誰一人として中に入ろうとしない。彼らは私を見つけると、駆け寄ってきて私を取り囲んだ。みなそれぞれぶつぶつと不満やるかたなしといった調子で私に言い募るのであった。「先生、中を見てみてよ。孫光泰が子分を引き連れて教室をめちゃめちゃにしていったんだ。臭くて汚いったらもう……」

 教卓を始め、生徒たちが使う机など、教室内ほぼすべての机という机の上には馬糞がこんもりと置かれている。そしてその馬糞の山一つ一つには、何とも言えない臭気を放つ鮮やかな黄色のアカ花が、それぞれ一輪ずつ、丁寧に刺さっている。さらに天を衝くほどの怒りを覚えたのは、机の上のそうした馬糞のなかには、馬糞ではなく強烈な悪臭を放つ人糞が置かれていることがわかったからである。これはいったい何という教室であろうか。

 だが、当の孫光泰はこうした悪事を終えたあと、さっさと姿を消していた。そして彼につきまとう子分たちもどこへ行ったかわからない。思うに、今ごろは孫光泰とともに野遊びに興じていることであろう。

 私はまず生徒たちを慰めた。そして袖をまくり、生徒たちに指示して教室の清掃を始めるしかなかった。心の中で、この一件、どう処置したものかと考えながら。

 私は孫光泰が体罰を恐れないことを知っていた。彼の掌は分厚くしかも硬い。誰かがびしびしと打ち据えたところで、それがたとえとても強く打ち据えたとしても、彼は顔色一つ変えることなく、それどころか、逆に怪しくも余裕のある笑いで教師を眺めていることだろう。だからといって、さらに力を込めて打ち据えたとしても、こちらの手の方が疼いてしびれてしまうだけである。こんなふうになるのであれば、結果は自分の恥ずかしさはさらなる怒りに変わり、さらに何もできない自分に気付いて、自分の無力さに溜息を付くしかないであろう。

 結局、ほとんどの教師はこの孫光泰については仕方なく片目をつぶって見逃さざるを得ないという情況なのである。そうしているうちに、今回ついに、このように教室を糞まみれにするという事件が起きたわけなのだ。だが、これはもう我慢の限界を超えている。

 私は思いを巡らせた。そして、まずはこの孫光泰の家を訪問して、彼の家庭環境を具体的に把握してみようと考えたのであった。彼の家族とよく話し合って協力し合い、彼を学校の規則を守る一人のまともな生徒にするため、なにかしら妥当な解決方法を探ろうというわけである。


養子・痩馬・秋夜 (3)へ




関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR