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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 養子・痩馬・秋夜 (1)

養子・痩馬・秋夜

 授業開始の鐘が鳴り、私は五年生の教室へ向かった。遠くの方に|孫光泰《スングァンタイ》の姿が見えた。この孫光泰は、全校でもっともできの悪い生徒の一人といっていい。彼は何かしらよくわからないものを私の教卓の引き出しに放り込んだ。そしてさっと身を翻して教室の最後列にある彼の席へ戻ると、まったく何事もなかったかのように装い、襟を正して平然と着席している。

 私は教室に入り、何も知らぬふりをしながら自分の教卓へ向かった。生徒たちが礼をして着席したあと、何人かの生徒たちが焦りながら私の教卓を見つめ、そして私を眺めている。何か言いたそうな感じがするが、彼らはみな一様に孫光泰の野蛮な鉄拳を恐れているから、敢えて口に出そうとはしないのである。さらに別の数名の生徒たちは、お祭り騒ぎが好きな男の子たちである。騒ぎが起きるのが待ち遠しくて、待ちきれずにもじもじしながら我慢している。

 私は微笑みを絶やすことなく、だが、心の準備は済ませている。そして教室内を見回した。やがてその視線は孫光泰に焦点を合わせる。当人は何事もなかったかのように平静を装い続けているようだが、しばらくすると徐々に落ち着きを失い始めている。

 「孫光泰、こっちへいらっしゃい。いま先生の教卓の引き出しに入れたものを出しなさい」私は当の引き出しには見て見ぬふりをしながら、強い語気で孫光泰に言い付けた。

 教室の中は静まりかえっている。わくわくしながら揉め事に期待している悪がきどもは、空気が抜けたボールのようにあっという間に興奮が冷めていった。さらに、少なくない生徒たちは、肩の荷が下りてほっとしたように一息ついて、先生の「先見の明」に対して胸をなで下ろしている。

 孫光泰は自分の席でじっと座ったまま、相変わらず極悪な笑いを浮かべている。そして、まるで何事もないかのように「なんだよ。おれは先生の引き出しになんか、何も入れてないぜ」と言った。

 「こっちへ来なさい!」私は有無を言わせぬ強い声で怒鳴りつけたのであった。「孫光泰、来なさいと言ったらこっちへ来なさい!」

 私がかなり怒っている様子を見た生徒たちは、みな冬の蝉のように静かに押し黙った。私は普段から生徒に対して怒りをあらわにするようなことはほとんどない。孫光泰は仕方なくゆっくりと起ち上がり、だが一方で何にも臆することなくこちらに向かって歩いてきた。彼は面倒くさそうに引き出しの中へおもむろに手を入れ、がさごそとしばらくまさぐると、一丈(約三メートル)ほどはあろうかという長さの、斑に爛れた蛇の死骸を引きずり出した。

 さすがの私もこれには驚かされた。実のところ、まさかそれが長い蛇の死骸であるとは露にも思っていなかったからである。だが、生徒の陰謀の思うつぼにならずに済んだので、心の中ではほっとしていたのも確かである。そうでなければ耐えられたものではない。特に私は生徒たちに私が驚いて狼狽する様子を見せたくはなかった。そんなことになれば、彼らの心の中にある、教師としての私の尊厳というものが失われかねないのだ。

 すると孫光泰は、突如なんの前触れもなくその蛇の死骸を頭上で振り回し始めた。蛇の死骸はもうちょっとで私の顔に当たりそうになったが、私は怒りを堪えながら、なんとかそれを躱した。そして、私が大声で叱ろうとしたところだった。孫光泰はその蛇の死骸をさらにぐるぐると何度も回して勢いをつけ、力強く教室の生徒たちに向かって放り投げた。その蛇の死骸は生徒たちの方へ勢いよく飛んでいって、生徒たちの上に落ちた。生徒たちは驚いて騒ぎ出した。教室はまるで煮立った雑炊のように乱れに乱れたのであった。孫光泰はそんな教室の様子を見てすっかりご満悦の笑みを浮かべたかと思うと、あっというまに教室から駆けだしていってしまった。


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