シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 人参果 (9)

 

 その後も私たちはずっと奔走し続けていたものの、だがそれでも見つからず、少々失望しかかっていたところであった。だが、その日はついに、思わぬ形で訪れた。

 その日は日曜日で、私は例によって子供たちを連れてメーサイの教会へ礼拝に出掛けた。

 メーサイの中心地の後ろ側には色とりどりの豪華な西洋式住宅があって、その住宅の持ち主はつまり、成功した冒険商人たちであり、彼らは遠くからやってきてこの地に住み着き、今では神仙の如き享楽を味わい、豪勢な日々を送っているのであった。

 そのなかに一軒、緑が多い敷地の中に、異常なまでに精緻で華麗なひときわ人目を引く建物があった。いつもそこを通るたびに、私はこの家にはどんな人が暮らしているのだろうかと想像していた。もっともそれはそのまま、その人たちがどんな方法で荒稼ぎをしていたのかという、誰でも興味を持つであろう疑問に変わっていった。もしかしたら、おもしろい小説の題材が見つかるかもしれない。

 そのときであった。私は乗り合いバスの車窓から見えた草陰の隙間に、あの毛虫のような女が、その建物の玄関のあたりに立っているのを見かけた。女は手足を動かしながら、おそらくだが召使いになにやら指図しているようであった。距離が離れているため、あの女の鳥肌が立つような声はここまでは聞こえてこない。だが私は、玉冷を誘拐したあの悪女をしっかりとこの眼で確認できる。

 この意外な発見に、私は全身に震えが来るほど興奮した。私はあの女を指さしながら、乗り合いバスの中から大声で叫んでいた。「あの悪い女があそこにいる。あそこだ!」乗客たちは驚いて私の方を振り返る。私はそのまま大声で、
「すいません、運転手さん。車を止めて、私を降ろしてください。私はここで降りたいんです」と言った。

 運転手は私の神経が異様に高ぶっている様子を見て、慌ててブレーキを踏み、バスを停車させた。車体はまだ止まりきれずに前に動いていたが私は二人の娘の手を引いてバスから飛び降りた。バスの中の乗客があれやこれやと騒いでいて、この気違い女と罵っているのが聞こえる。

 そのとおりであった。私は興奮して気が狂いそうだった。私は街の中を何度もぐるぐると回った。何度か曲がると私の娘たちは不満げに私に文句を言い始めている。娘たちを見てはっとなったのであったが、私はこのようなやり方で家を見つけても、そのあとのことを冷静に考えれば、ただの飛んで火に入る夏の虫であった。

 私たちはタクシーを拾ってメーカムに急いで戻り、救いの神であるロンサイワイ村長を呼びに行った。

 ロンサイワイ村長はすぐに車を出した。私たちはまず警察局に援助を求めたところ、協力を約束してくれた。
 あの謎の邸宅は、それほど難しい場所にあるわけではなかった、何度か道を曲がったり戻ったりしながらすぐに見つかった。

 しかもちょうどいいことに鉄の門扉が開いている。あの毛虫のような女がちょうど車で出掛けるところであった。私たちを目の当たりにして、眼を見開いて驚いているようでもあるが、一方で、歯を噛みしめて肩を揺すり、お前たちなど何も怖くないと訴えているような様子でもあった。

 だが、私たち双方が口を開く前に、玉冷が泣き叫びながら二階から駆け下りてきた。

 私は車のドアを開け、玉冷に向かって駆けだした。しかし、斜め後ろの方から巨漢が飛び出てきて、大声で怒鳴り、玉冷の腰を掴んで連れ戻してしまった。

 一方、例の女はロンサイワイ村長が通れないようにしている。女は玉冷を掠ったことを言下に否定した。そして、私たちが門の外に出られないように纏わり付いている。だが私はすでにだいぶ奥まで入っており、玉冷を追い掛けて応接間へ入り込んでいた。

 応接間には、背が低く小太りのどっしりとした老女が座っていた。翡翠で作った数珠を手に持って弄くっている。老女は弱々しい声で言った。「何事ですの?私の可愛い人参果を脅かすようなことはしないで頂戴」

 人参果と呼んでいる…。私はあきれてものが言えない。だが、この大奥様と呼ばれる老女が、大変な子供好きであるというのはどうやら本当らしい。玉冷のことを人参果と呼んでいるのだから。

 玉冷の泣き声がどこか遠くの方から聞こえてくる。そのか細い泣き声は、すぐに口をふさがれたのか、聞こえなくなってしまった。

 「これこれ、私の人参果を驚かしてはだめよ。あとであの子の血が濁って酸っぱくなる」その老女はそう言うと、誰かが入ってきたことに気付いたらしくさっと振り向いた。



人参果(10)へ





関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR