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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 人参果 (8)

 
 夜になった。私たちの寂しい小さな家に灯りを付けた頃、一人のタイ人が慌てて駆け込んできた。彼の話では、昼にやってきたあの謎の女が二人の巨漢を連れてまたやって来たらしいのである。

 私は衣服に着替える間もない。白い寝間着を着たままだったが、とにかくそのタイ人と共にすぐさま家を飛び出した。ロンサイワイ村長を呼び、墓地の方角へ向かった。

 遠くの方に眼を刺すような車の照明が見え、その光はあの壊れかかった草屋を照らしている。私はとにかくできるだけ速く走ったが、寝間着の裾に足を取られて転んでしまった。私の両膝から血がにじみ、痛みがひどい。

 ロンサイワイ村長と村人たちは私を引き起こしたが間に合わなかった。その車はちょうどエンジンを掛けるところで、私たちは車を阻止しようとした。

 私は寝間着の裾を引きずり、膝小僧の出血もそのままに、無理矢理にでも起き上がって追い掛けるのが精一杯であった。

 だが遅かった。その車は驚くべき速度で暗闇に突っ込んでいき、曲がったところで見えなくなってしまった。

 村人たちは命懸けで村の外まで追い掛けたのだが、その車がどちらの方角へ走り去ったのかすら皆目見当が付かないのであった。

 玉冷が誘拐された。

 母親はベッドの上で昏睡している。では玉清はどうしたのか。まさかあの子まで連れ去られてしまったのだろうか。

 幸いなことに、玉清はだいぶ離れた井戸に水を汲みに行っていて家にはおらず、連れ去られてはいなかった。

 あの毛虫のような女疫病神。私はいままで汚い言葉で人を罵るようなことがなかったが、思わず歯ぎしりして地団駄を踏んだ。牛の如きに壮健な男であるアンシャン兄に頼んで、あの爆発したようなパーマ頭をがっちり掴んで、あの化粧を塗りたくった顔を大木に力一杯ぶつけて、どす黒い胆と心臓をカラスに啄ませてやりたい。

 死を呼ぶあのカラスどもが、どうしてあの女の眼球を啄まないことがあろうか。これこそが弱肉強食の掟ではないか。

 母親が目を醒ました。彼女は目を開くと、玉冷を探している。饅頭のようにぱんぱんに膨れた手を伸ばして、もがくように空を掴んでいる。仄暗い灯りの下、破れた皮膚からしみ出てくる薄黄色の液体が流れ落ちてくるのが見える。

 ロンサイワイ村長は丁寧に掛け布団を掛けてやり、動じずに母親を慰めている。

 アンシャン兄がはあはあと息を弾ませながら駆け戻ってきた。彼によると、あの車はメーサイ方面に走り去ったようである。

 メーサイ。それは、タイとビルマ領タチレクが交わる国境の上にある町。おそらく北タイで最も賑やかな町。そして世界が注目する黄金の三角地帯の中心地帯。

 メーサイ。それは、大儲けの機会を狙う海千山千、有象無象の冒険商人たちの楽園。

 玉冷はどうなるのか。その連中は玉冷を誘拐していったい何がしたいのか。

 眠れない一夜を過ごした。空も明るくなりかけていたころ。大型のオートバイが騒がしく我が家の庭に入り込んできて、ヘルメットをかぶった乗り手は一通の封書をさっと投げると、瞬く間に走り去っていった。

 その手紙には、「お前自身の安全のためにも、こうしたことには首を突っ込まない方がいい。楊志鮮の娘のことは、そもそもお前とは関係がない。もしこの警告に従わなければ、云々、云々…」とある。

 私は怒りに震えて、心が沸騰しそうであった。よく見えない凶悪な顔が、暗闇に潜んで私を暗然と冷笑している様子が目に浮かぶようだ。私は爪が掌に食い込むほどの力を込めて、その紙を握りつぶした。

 なにが「もし従わなければ、云々…」なのか。私はそばにあった椰子の木を思い切り殴っていた。私の手は青くなって腫れた。だが不思議と痛みは感じない。私の心と同様に麻痺しているのだ。

 私がこのような脅しに怯えるいわれはない。むしろ怒りが後押しして、絶対に玉冷を探し出してやるという決心を固めていた。それに、私は一人ではないのだ。

 ロンサイワイ村長は毎日の公務が終わると、あちこちに車を出して玉冷を探した。村人たちもいつもこのことを心に留めて、玉冷の消息がないかと始終聞き耳を立てている。


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