スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 人参果 (7)

 

 玉冷は私にぴったり寄り添って真面目な顔で怯えている。「お姉ちゃん、あの女は毛虫みたいだよ。人をちくちく刺すあの毛虫」

 私は玉冷の傍らでしゃがみ込んで、この子の両腕を掴みながら念を押すように言った。「玉冷。いいわね。よく覚えておくのよ。誰があなたを呼びに来ても、絶対にその人について行っちゃだめだからね」だが私はもう一度考え直した。もしかしたら私の言っている意味がよくわからないかもしれない。「ああいう人は、子供を連れて行って油を搾り取るのよ。子供を火の上に置いて焙るんだから。怖いでしょ?」

 玉冷は必死に頷いている。この子の黒くて大きな瞳は、智慧に溢れているのだが、同時にこの子の逆らいがたい運命を思い起こさせて、心が痛むのであった。「お姉ちゃん、私は大丈夫。絶対について行かないから安心してね。お母さんが死んだら、お姉ちゃんが私たちを孤児院に連れて行ってくれるんだよね」玉冷は私の言っている意味を、ちゃんと善意に解釈して答えてくれたのだった。

 私は思わず喉が詰まり、玉冷をしっかりと抱きしめていた。この子はこんなにぷっくりと太っていたのか。このところ、玉冷はいつも私たちの家で食事をしていた。私の二人の娘は偏食がとてもひどいが、玉冷は何でもよく食べた。本当にたくさん食べる子で、毎食大きな茶碗に何杯もご飯を食べるのだ。食後にはまた果物をどっさりと食べる。私にはそれが嬉しくて、まるでアヒルに給餌するかのように懸命に食べさせたので、以前より太ってしまったぐらいである。しかし、この子の小さな顔の上に表れる憂鬱と悲しみは、日ごとに深く濃くなっていくようであった。

 玉冷の首に見える細くて黒いひもには、父親の両耳たぶがぶら下がったままである。日にちがだいぶ経っているので、乾いて枯れて裂け始めており、今では指の爪ほどの大きさになってしまっている。

 人参果…その名を聞くと、野菜を売って家に帰ってきた楊老が、家に入る前に天秤棒を置いて懐をがさごそとまさぐると、安物の飴を取り出してしがみついてきた玉冷に手渡す様子が目に浮かぶようだ。人参果…その名を聞くと、血の如く真っ赤に燃える夕陽が照らす痩せた畑、鍬を担いでいるせむしの老人が、元気に跳ね回る小さな女の子の手を引いて、でこぼこのあぜ道を歩く様子が目に浮かぶようだ。

 人参果…その名を思うと、「父さんの人参果や、早くこっちにおいで、父さんが口づけしてあげる」という弱々しい老人の声が聞こえるようだ。そして、そのせむしの背中が草屋の前に跪き、「人参果、こっちへおいで。お父さんがお馬さんになってあげる」そんな様子が目に浮かんでくるようだ。

 冷たい風が吹くようになってきた。私は玉冷をしっかりと見つめながら、作ったマフラーをこの子の首に掛けてやった。今でも残っている醤油のように黒く変色した耳たぶが見える。だが私は悲しいことを知っている。それは、玉冷が再び父親の人参果になる日々は、これからも、永遠にやってこないということだ。

 落ち葉が古木の梢からひらひらと落ちてくる。枯れた蔓草が吹いてくる風と共に草屋の屋根を揺らす。黄昏時のカラスは大きな声で鳴きながら、暮れなずむ夕陽の空を我が家へと帰って行く。西風が吹き、身体を流れる血が私に辛さと苦しさを訴えているのが聞こえるようだ。

 そうではないだろうか。気色悪いカラスたちの鳴き声はさらに大きく響いてくるようだ。連中は狂喜しながら話しているように聞こえる。その話の中身が私たちにはわからないだろうと思っているに違いないのだ。しかし私はすでに知っている。玉冷の母親が彼らの宴会料理になる日が来るのをずっと待っているのだ。

 玉冷の母親は、さらに全身が大きく膨れていて、引っ張られている皮膚は薄くなり、うっすらと光っているようにさえ見える。潰瘍となった部位からは黄色い液体が染み出し、またさらにまずいことに、破裂した傷口の多くが炎症を起こしている。彼女の命はあと何日持ちこたえられるだろうか。

 空のカラスたちは、ありったけの大声で鳴き続けている。私は恨めしくて、石ころをいくつか拾うとカラスたちに力一杯投げつけた。カラスたちは一度は驚いて、それでも喚き散らしながら乱れ飛んでいる。その声はさらに大きくなった。それはまるで、我々人類の低脳、我が儘、そして冷酷さをあざ笑っているかのようだ。

 私はカラスたちの嘲笑を背に受けながらその場を去った。私はこの北タイという土地の病んでいる部分を深く知っている。人類天性の善良さと愛には限りがある。多くの人々は私のように、心ではわかっていても、それを解決する力を持ちあわせていなかったのだ。


人参果(8)へ





関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。