シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 人参果 (4)

 
 楊志鮮の遺体が荼毘に付された後、私たちは、楊家の草屋にいた。重病を患ったまま寡婦となってしまった奥さんと無言で向き合っていると、ロンサイワイ村長が壺を両手に押し頂いて、墓地から戻ってきた。彼は奥さんのベッドの、頭の方にある供物台にその壺を置き、「楊さんの耳たぶはこの中に収めてあります」と言った。

 耳たぶ?私は訳がわからず、しばらく目を見開いたままであった。

 ロンサイワイ村長が言うには、「タイ人や、リス族の場合、人が死ぬと両方の耳たぶを切り取っておくのです。豊かな家ではその耳たぶを金や玉でできた壺に入れておきます。普通の家では少し上等な磁器の壺、楊さんのように貧しくて生活が苦しい人なら、素焼きの壺に入れます。そして年越しの歳にはそれを取り出してみなで拝み、追悼の念を表すのです」

 玉冷は父親の耳たぶが壺の中に入っていると聞くと、椅子を引っ張り出してきてその台の上に置いてある壺に手を伸ばして捉まえると、黄色く縮み上がった一対の耳たぶを取り出した。

 玉冷はその耳たぶを手にとってじっと見つめ、それから胸元に当てると大きな声で泣き始めた。泣きながらも、「これはお父さんの耳たぶ。あなたたちは悪い人、心が腐っている。カラスはお父さんの目を啄んで持って行ってしまったし、あなたたちは耳を切り取った。お父さんはもう何も見えないし何も聞こえないじゃないの。それに…、それに、あなたたちはお父さんを持って行って燃やして灰にしちゃった……」玉冷は力の限り泣き喚いては訴え続けていた。

 私は溜め息と同時に後ろを振り向いた。苦しみと心の痛みに疼く私の喉。私の視野は、涙によってほとんど遮られてしまっていた。

 ロンサイワイ村長は慈しみと憐憫の情をこめて玉冷を抱きしめ、優しい言葉を掛けて慰め続けていた。そして、玉冷の手から見るに堪えない人間の耳たぶをそっと取り上げると、また元の壺の中に戻し、壺を供物台の上に置いた。

 楊志鮮が死去したあと、寡婦となった奥さんはわずかながら金銭的な援助を受けることができた。村のタイ人の多くは稲作で生計を立てているが、力を合わせて数千バーツのお金を集めたのだった。近くにある雲南人が住む|回凱《ホイカイ》村では、養鶏やアヒルを飼っている人々、小商いをしている雲南人たちが、さらに数千バーツを寄付した。楊さんの奥さんは重い腎臓病を患っており、これでなんとか治療を受けることができそうであった。

 だが、病院はこうした極めて重症の病人を拒絶した。彼女の寿命が数ヶ月しかないからだというのだが、実際のところ、病人が治療費を払えないことを恐れていたのは明らかだった。

 人の良いロンサイワイ村長は、楊志鮮の次女、|玉清《ユーチン》に手紙を書いて、バンコクから呼び戻した。だが、長女は社長に休みを許してもらえず、帰郷が叶わなかった。

 年の頃わずか十四、五歳の玉清は端正な面持ちの美しい娘だった。苦難の中で成長してきた子供は、だいたい、人より早く成熟し、また物事を理解するようになる。玉清は母の看病と幼い妹の世話をするという重い負担を背負うことを選んだ。彼女の父親の死後に得られた村人たちからの寄付は、母親の治療に必要な医薬品を買うとあっという間になくなってしまった。

 玉清は生き延びるために、昼間はタイ人の田んぼで稲の世話をした。朝から晩まで働いて、二十五バーツのお金をやっと手に入れることができた。そうした辛い一日の仕事から戻ると、水を汲み、飯を炊き、さらに病気の母親を入浴させ、母親のベッドの上にまき散らされた屎尿を掃除する。

 腎機能が完全に失われた母親は、尿毒を体外に排出することができなくなっていた。母親の全身はまたしても浮腫み始めた、それは日を追うごとにひどくなっていったし、あらゆる生活機能は失われているので、食べることも飲むことも、すべては人の世話に頼らなければならないのであった。

 玉清もまた極度の過労と心労から、日を追うごとに消耗し、憔悴していった。たった十五歳にしかならないこの美しい娘の光彩は、苦難と挫折によって失われていき、枯れるように痩せ細っていった。

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