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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 癩蛤蟆精(イボガエルの精)(8)最終回

  
 だが、その反面、自分の中ではほっとしていた面もある。私がずっと焦れるように悩んでいた災難が、解雇とともになくなったからである。こんなふうに言えれば、たしかにそれほど気に病むこともない。タイビルマ国境地帯では、教師の職を得ることは大して難しくはないからであった。

 そして私たちは、農暦の正月を過ごしたらこのバーンヒンテークを離れることに決めた。
 私は数カ月前に「諸葛神算法」で占った結果について、おおかたそんなものであろうとたかを括っていたのであった。

 しかしあの数日、私は度々恐怖の悪夢で夜中に突然目が覚めた。冷や汗をびっしょりとかき、息も乱れていた。夢の中では、私の頭上から数え切れないほどの蛆虫たちが砂のように降ってきて、天と地の間が雪や霜のようにぎっしりと埋められた。その真っ白な光芒の中で、私はまっすぐに歩くこともできず、悲しみと恐怖に怯え、その苦しみは表現のしようがないほどであった。また別の夢の中では、夫の楊林が馬車を御しながら暗闇に向かって塵のように消えていくこともあった。私が彼に声を掛けて呼び戻そうとすると、家中の壁という壁が崩れ落ち、家は地割れした地中に飲み込まれていく。私は夢の中で火の付いた飛行機が漆黒の空から降りてくるのも見た。さらに、一つの髑髏が私に纏わり付くように飛んでいる。私は驚いて声を上げると、その髑髏は一瞬止まったが、その髑髏はなんと夫の楊林なのであった。私は彼を捉まえようとするが、彼は狂ったように笑いながら飛び去っていった。

 正月の十九日、私たちが飼っていた毛が長くて小さな犬、ピンピンが、そわそわと不安そうに一晩中窓や扉をひっかいていた。空が明るくなると、ピンピンは狂ったように駆け回り、贈り物の鶏を噛み殺した。そしてまたまた狂ったように隣家の子供を追い回していた。私は異状に気付いて犬を呼び戻したが、驚きながらもまたしても、見えない脅威が私たちに迫っているのを感じ取っていた。ピンピンはおとなしく私の足下に戻ってきて伏せていたが、あれよあれよという間に毛が大きな塊となって抜け落ちて、気息奄々、苦しそうに泣き続けると、口から白い泡を吹いて死んでいった。

 ピンピンが死に、パンパンが残された。私たちの二匹の犬は一匹だけになり、ピンピンとパンパンは二度と揃うことがなかった。

 それに、こうして幾晩かが過ぎる間、フクロウが家の上にとまって鳴き続け、なかなか動こうとはしなかった。

 それからであった。正月の二十一日。バーンヒンテークは突然、世界に伝わるような大きな戦火に見舞われたのである。夫の楊林はその日の午前十一時ごろ、学生たちを避難させようと誘導していたときに、銃弾に当たって命を落としてしまったのであった。

 砲火はバーンヒンテークの道に落ちては炸裂した。あの霊験に見た光景は現実となってしまったのである。
 戦闘が収束してから十二日後、タイ軍は居民が町に戻ることを許した。
 私は悲痛にくれながら道に立って、町の背後にある小高い丘を仰ぎ見ていた。そう、そこは、夫が命を落とした場所であった。

 一陣の怪しい風が私の回りに巻き起こると、あたりの紙くずを巻き上げていった。自分の後には一面の無残に崩れてしまった壁があった。

 私は呆然とそこに立ちすくみ、救いようのない悲しみと絶望に襲われていた。こうした一切の出来事はすべて実在せず、悪夢の中に朦朧と湧き上がっている情景に過ぎないと思い込むことしかできず、またいつもの霊験の中に現れた情景に過ぎないのだと疑っていた。

 そして、この霊験を通じて、「諸葛神算」の占いの結果に間違いのないことがわかった。
 私が占ったのは、もし偶然白蛇を見たら、どんな禍が起きるか知りたいというものであった。
 占いの結果はこうである。それは妖星である、一家は破滅するであろう。
 私たちの家はたしかに破滅してしまった。

 ただし、私は思う。これはもともと、人間の努力で挽回できるものではないのか。人間の努力とは、たとえば、愛する気持ちや許しの心、寛容さなどである。どうして私たちはこの禍を避けることができなかったのか。もしやこれはすべて冥界からの定めであったのか。

 いずれにしても、その答えをいったい誰が教えてくれるというのであろうか。もし、私がイボガエルから取り出した精水を眼に垂らさなければ、あの毒を持った白蛇に出会うこともなく、このたびの災難もうまく躱すことができたのであろうか。(イボガエルの精 完)




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