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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 癩蛤蟆精(イボガエルの精)(7)

 
 そして、私たち三人がバーンヒンテークに戻った頃、ちょうど新学期が始まった。

 人を窒息させずにはおかないようなこの土地に帰ってくると、しばらくご無沙汰していたあの霊験に襲われるようになった。蛆虫が屍骸にびっしりと貼り付くように、影の如くいつも形を変えては現れるようになったのである。怪しい風が吹いてあたり一面の紙くずを巻き上げて、私はそのあとに一人、燻るような余煙と崩れた壁というのは同じである。

 私はこの霊験のおかげで、すっかりすり減り、もう発狂寸前であった。

 しかし、こんなことを人に話したところで誰も信じてくれはしまい。悪くすれば、危険な噂や妖言を振りまいてみなを惑わす者と思われてしまう。

 だが、私には、理解してくれる誰かが必要であった。そう、私と共にこの苦悩を分かち合ってくれる人が必要なのだ。そうしてようやく私は少しだけまともになることができる。

 高おばさんを眼にするたびに、いつも私が見ているこうした情景を彼女に話したくてたまらなくなるのだが、我々には君子の約束があって、私にしても、他人に累が及ぶようなことは耐えきれない。だが、喉まで出かかった言葉を、いつもそうして飲み込んでしまう。

 高おばさんは私がその霊験をすでに見ていると深く信じている様子であった。私がすっかり意気消沈している様子を見て、どうもおかしいと思ったのか、私の衣服を洗濯してくれることはなくなっていた。

 人が寄りつかなくなったので、散歩に出ることもなくなり、自分で洗濯する時間はじゅうぶんひねり出せるようになった。

 学校へ出勤して授業をする以外、私はいつも部屋の奥に籠もりきりで、外部世界との接触を断ち切っているかのようであった。

 一種、救いがたい幻と虚構の深淵にはまり込んで、自ら抜け出ることなどとてもできない。そうした私の情況は、誰にもわからないのである。

 私も真面目にただひたすら良き人であろうと努力し続け、あらゆることに気をつけて、何事もなく過ごすことが一番いいと思っている。

 だが、私はこの精神的な虐待と、同情心が欠如した中で生きていかなければならない。私には理解できなかった。世間との争いごととは全く無縁であった私が、どうしてこれほどまでに人に嫌われてしまうのか。私はいかなる他人をも責め立てたことがないのに。得意揚々とすべてに満足して気持ちよく生きたことすらないのに。私は他人による衆人環視の中、背中を丸めて膝を屈して、なんらはみ出ることなく静かに暮らしてきたというのに。

 にもかかわらず、何人かの暇人たちが、さまざまな作り話を流し、やっと維持していた私たち夫婦の間に疑いの種をまくようなことを言い出した。彼らはこうして問題を作って、人が困るのを見ては溜飲を下げているような人間たちなのである。

 一九八二年元旦後の十日あまり、夫の楊林はついにこうした小物どもの話を軽信してしまった。私も落ち着いて対応できなかったので、相互の不信はそのまま大きな喧嘩になってしまった。

 この一件こそが、私たち夫婦の不幸の導火線であることに、そして、大きな禍が降りかかる前触れであったことに、私がもし気付いていたならば、もし、もし…。

 もし私が、こんなにもたくさんの「もし」に先に気付いていれば、すべての災難は起こらなかったのである。
 それに、私は気付いていなかったわけではないのだ、しかし、良心に従って、人間が耐えられるぎりぎりの範囲において、私はこの心の声をぐっと飲み込んで、ただひたすら堪えてきたのではなかったか。

 今になると、私は自分自身が寛容さが足りない人間であること、そして、慈悲が足りない人間であることを恨めしくさえ思う。もし私があのあとに起きる不幸な出来事を知っていたら、私は心の底から、左の頬を打たれれば右の頬を差し出すべきであった。つまり、これは痛みという対価を支払ってでも、人として世を処していけという教えである。その後の歳月においては、私はこのようなイエスキリストの訓戒を胸に抱きながら、人として生きていこう。

 さらに、私は今回の一件で、上司を怒らせてしまい、そのために解雇されてしまった。あとで思い返すと、これはいつもの私らしい振る舞いではなかったし、私はいつも人に媚びていると思われるほど礼儀を持って人と付き合ってきたつもりだ。どうして今頃になっていつもと大きく違うようなことになって、他人を怒らせてしまったのか。もしや、私は神経失調症を患っていたのではあるまいか。


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