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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 癩蛤蟆精(イボガエルの精)(2)

 
 そのような彼女のとても神秘的な様子に、私は実のところ怯えを禁じ得ないのであった。

 いろいろと聞きたいことがあったのだが、私はその質問を飲み込んで、あえて口に出そうとはしなかった。私の煩悩は、すでに頂点に達していた。こうした何の意味もないようなことや、知ることができるはずもないであろう未来のことに、どうして私がそこまで困惑しなければならないのか。

 二日目の夜、高おばさんが洗い上がった衣服を持ってきた。彼女は私が一人で家にいるのを確かめると、用心深く小さなガラス瓶を取り出した。瓶の中には明るく透き通った液体がほんの少しだけ入っている。

 私は「高おばさん、これがあのイボガエルから抽出した精水なの?」と、いたずらっぽく彼女に言った。
 「馬鹿にしちゃいけませんよ。笑い事じゃないんですから」高おばさんは少しかしこまった感じで言うのであった。「私がこの精水を抽出するまでには、九回蒸して、九回漉したんですから。そうしてずっとやっていて、ついには鶏が鳴く頃合いまでやって、やっと取れたんですから」

 それほどの苦労を掛けたものならば、たしかに私は、この精水を甘く見ることはできない。

 高おばさんはそんな私を見ても、黙して語らずである。そしてしばらくすると言葉を選ぶように重々しく言った。「もっとも、先生がこれを使う前だから、もう一度言いますけど、本当によく考えて。やっぱり見ない方がいいのではないですか」
 「だめよ。もう私は絶対見るって決めたんだから」心中ではまだどこか半信半疑であるにもかかわらず、私は自分の好奇心に固執していたため、そこのところは強く言った。

 高おばさんは低く唸ることひとしきり、まだ逡巡しているような言い方で、「先生が絶対見るというのなら、いいでしょう。まず、先に約束してくださいませんか。あなたが何を見ようとも、絶対にそれを口に出してはいけません。いいですか、天の秘密は予言を許さず。もし漏らしたら、一家が破滅するほどの禍に見舞われますから」その語気に私は思わず戦慄してしまった。本来なら、見る必要がないものだが、こうした神秘的な現象が持つ誘惑には抗し難いものがあるのもたしかであった。そして、「高おばさん、大丈夫よ。私は絶対に口に出したりしないから」と約束した。
 「ではよろしいですか。これはあなたが見たいと言ったから見るんですよ」
 「もう決めているわ。これは私が心から望んでいることですもの」
 高おばさんは、もう何も言うまいという感じであった。彼女は真っ白くて細い一本の骨を取り出した。彼女が言うには、この骨は、あのイボガエルの後ろ足から取り出したものらしい。彼女はこの白くて細い骨を先ほどの瓶の中に突っ込むと、瓶の中にある精水に浸けて、それを一滴、私の眼に垂らした。
 「精水」は垂らされた。だが、私の眼には何の変化も起こらなかった。
 高おばさんは余った精水をゴミ捨ての穴に空けると、石ころでその瓶を粉々に砕いてしまった。

 そして彼女は私に向き直ると、「あと七日間のうちに、あなたは何回か同じようなものを眼にすると思います。それは、命のあるもので、そうそう見かけるものではありません。そして七日以降になると、こんどは、間をおいて何度も、未来に必ず起きる出来事を見ることになりますよ」

 高おばさんはここまで言うと、なぜか急に喋るのを止めた。すっかり厳粛な感じになっているが、どこか怯えているようにも見える。

 このような彼女の態度からみて、彼女が決して嘘や誇張でこのようなことを言っているのではないと信じるには十分であった。私は彼女の言葉を聞き漏らすまいと注意深く耳を澄ませ、彼女が話し始めるのを待った。
 「その珍しい経験というのは、夢の中に出てくるのではありません。歩いているときでも、立っているときでも、喋っているときでも、笑っているときでも、あなたの精神が研ぎ澄まされているときに、いつでも出てきます」高おばさんは喋りながら、地面に向かって口の中の紅い唾液をぺっと吐き出すと、もう一度しっかりと念を押すことを忘れなかった。「いいですね。忘れないでください。何を見ようと絶対に口に出してはいけませんよ」
 「おばさんにも言ってはいけないの?」
 「だめです、絶対だめです」高おばさんは震え上がった。「あなたが誰に話そうと、聞いた人間は家が潰れて命を失うんです。よその人がそんなふうになるのはあなたにとっても辛いでしょう」
 「もし言わなければ?」
 「言わなければ他人に累が及ぶことはないです」
 「なら、私たちはどうかしら、やはり何かまずいことが起きる?」恐怖と不安が、明らかに私の心の中で沸々と湧き上がってくるようだった。

 高おばさんは怯えるように眼光を動かすと、しばらくじっと塀の隅を眺め、何も喋ろうとはしなかった。

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