シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 【琵琶鬼(精霊ピー・プー)3】

 
 その後、私がビルマ、タイと漂ううちに、私は琵琶鬼に関する話をさらに多く耳にすることになる。

 琵琶鬼が祟るという話は、聞いた感じでは、幽霊が取り憑く伝説に非常によく似ている。だが、幽霊が取り憑く場合は、取り憑いた相手が痛みを覚えるということはない。しかし琵琶鬼は、取り憑かれた人間に、生死の境をさまようかの如き堪えきれない痛みをもたらす。

 昨年五月、北タイ、バーンヒンテークのとある小さな村でのできごとである。十七、八歳になる一人の中国系イスラム教徒の少女が琵琶鬼に祟り殺されたという。彼女が生前に語った琵琶鬼の対話は、ある人によって録音されていて、彼女の家族は現在台北に来ているので、会って話したのだが、それはとても悲しい出来事であった。

 そういえば一つ、非常に奇怪なことがある。通常、琵琶鬼に祟られた人は、両わきの下に拳大の、自由に動く塊状の硬い瘤ができる。そしてその瘤が動き回る先が、そのまま耐え難い激痛を伴う部位になるというのだ。

 さて、当地の人々が琵琶鬼を追い出すときは、箒、黒紫色のサトウキビ、山羊の角、虎の牙を使ってその瘤を叩く。その瘤が法力の強い一撃を受けると、身体の周囲を動き回る。左から右へ、頭から足へ、前に後にと、とにかく打撃を避けようとひたすら縦横無尽に動き回るのである。周囲で見ている人はその瘤が動き回り、怪しく、素速く取り憑かれた者の身体の各部位を経て、突然飛び出してきて身体から離れていく様子がはっきりと見て取れるという。琵琶鬼に取り憑かれた人間は、こうしてどんどん打ち続けられているうちに、体中に鱗のような傷ができるが、話によると、そのように取り憑かれた人間が打ち据えられている間、琵琶鬼を放った方の人間もやはり同じように痛むのだという。

 経験豊富なシャン人の霊能者は、軽く触っただけでその瘤を発見して、死ぬほど力を込めてその瘤をつかみ、それから、山羊の角と虎の牙でがっちりと固める。取り憑かれた人間は人事不省の如く昏睡しているが、霊能者、または、琵琶鬼を追い出そうとする者は、まずはそうしておいてから琵琶鬼に語りかけるのである。対話の相手は、その琵琶鬼を放った者ということになるが、不思議なことに取り憑かれた方の人間は決まって見知らぬ人の語気、口調でその語りかけに答えるのであった。通常男性は女性が出しそうな、鳥の鳴くような声を発し、たとえ、その男性がシャン語を話せないとしても、口からは正確で流暢なシャン語で澱むことなく出てきて答えるのである。琵琶鬼を放った者は、そうしてその場を借りて自らの欲するところを話し始めるのだが、その内容はといえば、ほぼ例外なく、こういう物が欲しいだの、取り憑かれた人間がどんな罪を犯しただの、礼を尽くして詫びろだのといった内容だ。だが、そのような謝罪といったところで、だいたいが金銭や物品で償えば済むことになっているのである。

 要するに、琵琶鬼を放つ者が欲しがっているものを手に入れてきて、言われたとおりのところにそれを置くだけでいいのだ。だが、その場合、琵琶鬼を放つ者の眼に触れるような置き方、つまり誰が琵琶鬼を放っているかが明らかになるようなことをしてはいけない。さもなければ、その琵琶鬼を放つ者を辱め、さらに怒りを増幅させてしまう。そうなると、受け取りも許しも拒否され、取り憑かれた者を死に至らしめることになる。

 バーンヒンテークのその少女はまさしくそうした例で、琵琶鬼を放つ者にそのものを持って行くところを見られてしまった。そして、受け取りを拒否されたのだが、それはつまり琵琶鬼を放っている者が誰か、公に認めることになるからである。タイとビルマにおいて、こうした邪な妖術を操る者は、衆人憎悪の対象となることを恐れているので、胸を張って自身がそうした人間であることを認めようとはしない。一旦琵琶鬼を放つ者として皆に思われてしまえば、その地域の人々は束になってその者を駆逐すべく起ち上がるであろうからだ。その上、こうした邪な男女とは誰も結ばれようとは思うまい。姓名を隠したり、遠方へ引っ越したり、集落の群れから離れて、すさまじく寂しく孤独な生活を選ぶのでなければ、結果は自然とそうなるのである。

 さて、その中国系イスラム教徒の少女は、二、三日にわたってこうした騒動があり、やがて衰弱していき、ついにはその命が尽きた。当地に駐屯しているタイ国境警備警察部隊に所属する軍医が少女の検死に立ち会ったらしいが、病気らしい病気は見つからなかったというのである。


琵琶鬼(精霊ピー・プー)(4)へ続く




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