霊犬蒙迷科(霊犬マウンミークー)(9)

 
 
 マウンミークーが再度吠え出すことはなかった。ただ、低い唸り声を上げているだけだ。父と弟も家から出てきて、政府軍兵士たちの様子を見に来た。

「お前らはここで何をしているか?」

隊長らしき男が咎めるように聞いてきた。

「私達はカチン族です。畑をやっているのです」

父がビルマ語で答える。ここからそう遠くない場所に、カチン族の焼き畑があるのだ。

 その隊長らしき男は、それ以上は何も聞かず、部下たちとともに家探しを始めた。

 彼らはひと通り家の中を引っ掻き回していたが、幸いなことに、疑わしい痕跡は何一つ見つからなかったようだった。

 だが、その隊長のような男はとても強引で、また凶暴であった。梁の上にいたフーフーを見かけると、こちらの言い分などつゆにも気に掛けず、私達にフーフーを引き渡すようにと迫ってきた。

 父は面倒を恐れ、フーフーに声を掛けて呼び寄せ、鎖につなぎ、その隊長のような男に引き渡すことにした。フーフーはそれに気付いてか、キーキー喚き散らしたが、それはまるで私達に抗議しているかのようにも聞こえた。

 兵士たちがフーフーを手に入れ、そして去っていった。これでフーフーとの今生の別れになることに、誰もが気付いていた。マウンミークーはしばらく兵士たちを追って行ったが、しばらくするとあきらめて戻ってきた。

 父はマウンミークーが戻ってきたのを見届けると、ひと呼吸入れて、こう言った。

「マウンミークーが気付かなかったら、私は彼らに捕まっていただろうね」

 夕暮れ時、父はまだ翡翠鉱山に出掛ける準備をしていないようだ。

「父さん、今日は翡翠掘りに行かないの?」

私は不思議に思って尋ねた。というのも、父は天気がどんなに荒れた日でも、翡翠掘りを休んだことはなかったからだ。

 父は私と弟の肩を抱き寄せて、重大なことを打ち明けるような厳粛な口調で耳打ちした。

「父さんは荷物をまとめる。私達は今夜、山を下りることになる。いいな」

「今夜、山を下りる?」

私と弟は目を丸くした。

 父はただ頷くと、桶を手に外へと出ていった。

 父が戻ってきた時、その桶の中には、大小さまざまの、見るからに質の良さそうな翡翠の原石がたくさん入っていた。

 ちょうど荷物をまとめ終わった頃だった。マウンミークーが、また外で、大声で吠え出した。


霊犬蒙迷科(霊犬マウンミークー)(10)へ続く


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