霊犬蒙迷科(霊犬マウンミークー) (8)

 
 
 その日、父はいつもと変わりない様子で帰宅したが、我が家がこうして何度も住まいを換えなければならないようになってからというもの、このように晴れ晴れとした表情の父を見たことがなかった。

 父は日頃から、気持ちを顔に出さない人である。愉快そうに笑ったりすることもなかったが、私には父の表情がみるみる曇っていくように見えた。小鳥たちが音を立てて一斉に飛び立っていった。父の眉間からは、今までとは違った憂慮を見て取ることができたが、その時の私達は、それが一体何であるか、見当すらつかなかったのである。

 父はいつものように、家に入ると背嚢をがさっと下ろした。私と弟はすぐに朝食の支度を始めた。

 父がコーヒーを一口含んだとき、ちょうど外からマウンミークーの吠える声が聞こえてきた。

 すると父はすぐにカップを置いて、背嚢から、小さなお椀ほどの大きさの、ちょうど鵞鳥の卵のような形状をした石を取り出して、大きな竹筒の中に入れながら私にこう言った。

「ミーミー、この石を外の小川の溝に放り込んでくるんだ。小川までの途中、慌てた表情をしてはいけないよ」

 私は竹筒を背負い、できるだけ普段のように装い、家の裏手にあるその溝まで歩き、あたりを見回して、誰にも見られていないことを確認すると、急いでその石を小川の溝に放り投げたのだった。

 一瞬の慌ただしい間のことだったが、その石には一箇所欠けたところがあるのが見え、その中から、水のような色にも見える緑色がのぞいていた。いちどきにいろいろなことを知りすぎた私の心臓は鼓動を大きくした。私が思うに、あの石はきっと、とても上質な翡翠の原石に違いなかった。そして、父はかつて、このように石を持ち帰ったことなど一度もなかったのであった。

 マウンミークーが吠える声は、更に激昂しているようだった。私はその石を隠し、竹筒で水を汲み始めた。

 水はまだいっぱいになっていなかったが、そのとき、聞き慣れたビルマ語の悪口雑言が耳に飛び込んできた。

 振り向くと、一隊の政府軍兵士たちが、マウンミークーを袋叩きにしようとしている。マウンミークーがやられるのを見ているわけにはいかない。私は政府軍兵士が怖かったが、それでも意を決して吠える犬を制止した。


霊犬蒙迷科(霊犬マウンミークー)(9)へ続く


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