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埃峩(アイオーという名の男) (8)


 彼はこのように、昼は薪を切って売り、夜は近所のアカ族の家に居候して夜を過ごしていた。こうして時は驚くべき速さで過ぎていき、アイオーはやがてメーサロンに生活の基礎を築くことができたのであった。彼はいまや自分の力で食べる力を手に入れ、飢える心配がなくなっただけではなかった。自分の力で「阿片も吸えるようになった」のであった。

 やがて雨季がやってきた。アイオーは山に入るときまって、茸や木耳などを見つけては、私たちの家に届けてくれるようになった。これは彼の精一杯の心づくしでもあったのだ。だが、私たちにしてもそれをただで貰うというのはあまりにも忍びないので、いつもなにがしかの心付けを渡していたのである。だが彼はそれを見るとあまり愉快ではないらしく、その心付けをなんとか押し返そうとするのであった。しかし、結局は仕方なく受け取るといった感じであった。

 ある日、私が台所に立っていると、アイオーが音もなく入って来たことがあった。さっと手を伸ばしてテーブルの上にある空いた皿を引き寄せ、竹筒の中にある得体の知れない物をがさごそとその上にぶちまけた。私がふと振り向くと、その皿の上にはもこもこと動く白い幼虫がびっしりと盛られているではないか。私は全身の震えを禁じ得ず、吐きそうになる気持ちを堪えながらも、「これはなに?怖いわ!」と思わず叫んでいた。

「竹虫ですよ奥さん。これはとてもうまいんです」とアイオーが返した。

 竹虫とは、竹の節の中に生きる昆虫の幼虫で、長さはおよそ一寸ほどである。タイビルマの国境地帯では、この虫を我が命の如く愛して止まない人々が大勢いる。また、話によると、その栄養はとても豊富であるらしい。だが私は子供の頃から昆虫が大の苦手であって、ましてやそれを食べ物として、その美味をいただくなどということになると、もう叫ばずにはいられないのであった。

「私は要らないわよ、そんな怖い物。早くどこかへ持って行ってちょうだい!」と叫んでいた。

 それを聞いたアイオーはがっくりと失望した様子でぼそりと言った。

「私がずっと捜してやっと見つけたんです。途中で行き会った人が十バーツで売ってくれと言ってきたんですが、それでも売らずにお宅に持って行って食べさせてあげようと思ってたんですけど……」

 私は仕方なく首を縦に振って、

「あ、ありがとう。でも私は怖くてとても食べられないのよ。しかもそれを自分で料理するなんて私にはとても……」

「でしたら旦那さんに差し上げてはいかがですか?」アイオーはそう言って慇懃に、なおも勧めるのであった。

「彼も食べないかも」と私は言った。夫は昆虫の幼虫を食べると、全身にアレルギー症状が出るからである。

 アイオーは、私があくまで固辞するつもりであることを覚ると、やるせなさそうな溜息を付いた。仕方なくあきらめて、皿の上に広げた竹虫を竹筒に戻すと、心なしかいつもより速い速度でそそくさとこの場を去っていったのであった。

 しかし予想に違わず、彼が我が家の門を出るやいなや、直ちに多くの人々が殺到してこの竹虫を買い求めようとしたのであった。私は彼の好意を無にしてしまったけれど、心の中ではこのアカ族の男はなかなかどうして人情味溢れる人間であることかと感心していたのであった。


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