【番外編】北タイ・メーサロン 墓誌に刻まれた物語(12)

ビルマ全土に広がる内戦とB氏一家の南下

 A氏と同様、B氏もまたビルマで内戦に巻き込まれてしまった。しかし、彼らが内戦に遭遇した土地はかなり離れている。ビルマの内戦がいかに広範囲に広がっていたか、このことからもわかる。B氏は北ビルマで内戦に遭遇して、北タイへの南下を決意するが、この距離はA氏の場合と比べものにならないぐらい離れている。

 その距離は約七百キロぐらいはあろうか。だが問題は単に移動距離だけではない。距離が増えれば、そこで遭遇する種々の困難ももた、距離に比例して増えることがさらに問題である。カチン州からシャン州にかけてはビルマ政府軍、ビルマ共産党系、その他武装勢力など、数多くの勢力がモザイクのように入り乱れている。移動そのものも大変だが、それらの勢力をあるときは避け、あるときは支配地域に入り、ひたすら南下する長い旅を続けなければならない。

 民国五十四年とは一九六五年である。日本では昭和四十年。そんな時代にこんな内戦を戦っている国とはいかがなものか、そんな正直な感想はさておき、この時期はA氏よりもさらに数年後の時期にあたり、カチン州、シャン州ともに、内戦がより一層ひどくなっていた頃である。だがこのころの国民党軍はシャン州内に多くの拠点を確保しており、B氏はその一つにたどり着ければ、かつて反攻軍に参加していたB氏のこと、あとはなんとかなったのではなかろうか。

 ではなぜ、国民党軍はこのあたりに勢力を張ることができたのか。

英国統治時代に引かれた中緬国境線とコウカン人

 ビルマシャン州北部の主要都市ラーショーの東、中国との国境沿いにコウカンと呼ばれる地区がある。コウカンは中国語では果敢(GuoGan)と書く。この地区に住むコウカン人はその昔、明末から清初にかけて清朝支配を嫌って逃げ延びてきた漢人たちの末裔といわれている。このあたりはビルマが英国植民地時代に入るまでは、曖昧な国境線上にあって(むしろ国境のほうが曖昧であった)、彼らによる中国人の社会が営まれてきた。

 中国本土と地続きのため、いわゆる華僑とも異なる出自を持つ彼らが住む地区は、英国統治時代に清朝との間に引かれた国境線に則ってビルマ側に編入された。コウカン人たちはビルマ独立後しばらくして、シャン州が独立権を行使するか否かで揉めていた頃から独自の武装組織を立ち上げ、また、ラーショーやマンダレーなど中部・北部ビルマ一帯に浸透して大きな経済的権益を持つに到る。ビルマ国内では、こうしたコウカン人たちをまとめてコウカンと呼んでおり、海からやって来た華僑と区別して捉えている。

 また、コウカン人はその定義の曖昧さでも知られる。コウカン地区出身の中国系人はもとより、中国出身でもそのあたりに縁があれば誰でもコウカンを名乗れるというぐらい、その定義は曖昧だ。たとえば、国境を夾んだ中国側で生まれていても、母親がコウカン地区からやって来た人で、その後ビルマ側に移動してきてビルマで教育を受けたなどというケースがこれに当たる。中国大陸から越境してくる新華僑も、このコウカンで彼ら自身の国籍を洗浄して「ビルマ人」になり、彼らはマンダレーなどに多く住み着いている。

 反共救国軍が作戦を行った地域でいえば、その西の外れの方がちょうどそうした地域であり、国民党の末裔たちにも少なくない数のコウカン系の兵士がいて、彼らは国民党軍部隊の撤収と共に北タイにやってきている。国民党軍部隊がシャン州北部にかけて広く分駐して基地を経営できたのも、こうした人材面での強みと無縁ではなかろう。

 黄金の三角地帯という呼び名が最初に使われるきっかけを作った羅星漢もまた、そうしたコウカン人の一人であった。何度も逮捕されては不死鳥の如く蘇り、長くこの座に居座ったが、いまでも彼の世話になったという人の話をよく聞くので、もしかしたら、単なる麻薬王というイメージではなく、その稼ぎをそれなりに還元していたのかもしれない。だが彼はやがて、次の麻薬王クンサーに追い落とされ、コウカン地区においても、中国の支援を受けた彭家聲の勢力に追い落とされる。その後はビジネス界に転身して、国境貿易のや不動産開発の大物となった。その後はラングーンで優雅な老後を送ることになる。

【金三角 邊区 荒城】 三 麻薬王朝


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