埃峩(アイオーという名の男) (6)


 そして結果はどうであったかというと、やはり夫の推量の範囲を出ないものであった。三日目の夜、果たして例の男はまたしても我が家へとやってきたのであった。私は小吉に申しつけて残り物の料理とご飯を包ませた。彼は簀の子のあたりにしゃがみ込んでこれを平らげると、口の周りを拭って起ち上がり、またしてもこう言うのであった。

「奥さん。阿片をまだ吸ってないんですが……」

 他人に食を請い、さらに食後に阿片を一服して締める。世界のどこにこれほどいい待遇があるだろうかとさえ思われた。私は可笑しくなってしまい、笑いながら彼にこう言った。

「あなたねえ。食べる物にも事欠く有様なのに、それでもまだ阿片を吸いたいだなんて。どうしても吸いたかったら、自分で稼いだお金で吸いなさいよ!」

「奥さん、そんな殺生な……」

そう言いながら彼は大きくあくびをした。それからまた、例によって顔中を目やにと涙でぐちゃぐちゃにしながら切々と訴えるのであった。

「もう一歩も動けやしませんよ。阿片が切れてきました……」

そう言うと、簀の子の上にごろりと横になってしまったのであった。

 私はどうしてよいやらわからず、ただ眉に皺を寄せてこの様子を見ていることしかできない。だが、夫の楊林がこのやりとりの声を聞きつけてこちらに出て来た。そして、固く厳しい表情で彼に言い放った。

「おい貴様、起きろバカたれ。一体何様のつもりだ!」

 夫のものすごい剣幕を見た彼は、抵抗を諦めてそそくさと起き上がってきた。そして、こんどは私の顔色を窺っている。そして情けなく、だらしない表情を作って私に訴えるのであった。

「奥さん。まだ阿片を吸っていないんで……」

 これには、さすがの私たちも堪えきれず、思わず吹き出してしまったのであった。そして夫が彼に聞いた。

「なあ、アカ族さんよ。おまえさんなんていう名前だい?」

「アイオー。私はアイオーといいます」

彼は夫の顔色を窺いながら、おずおずとそう答えた。

「アイオー?つまり|挨餓《アイオー》(訳注、直訳すると「飢えを受け止める」の意)か。なるほどこうして飯をたかりに来るわけだ」

夫はそう言って笑った。

「ところでおまえさん、どこから来たんだい?」

 アイオーはちょっと苦しげな顔をしながら遠くの方を指差した。彼の濁った眼には、どことなく恐怖のようなものが充ち満ちている。元はといえば、彼が七、八歳の頃、ちょうど大きな不作の時期があって、彼はそのときに父母によってわずか十籠ほどの穀物と引き替えに漢人の家に売られた。それからの彼は牛の放牧をしたり、薪を切ったり、穀物を植えたりといった厳しい労働の中で青少年期を過ごした。しかも十数年にもわたってそうした奴隷の如き生活を余儀なくされたとのことであった。そして、そうした日々の中で唯一の慰めとして覚えたものが、つまりこの阿片なのであった。


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