埃峩(アイオーという名の男) (4)


 さすがの私もこの招かれざる客に対して苦笑せざるを得なかった。

「あなたねえ。人の家に勝手に入り込んでこんなことをしてはだめでしょう。まったく人騒がせな!」

 李さんもまた、

「こんなことをやってると貴様を警備部に引き渡すぞ。それでもまだここで粘るつもりか?」

と彼に言った。

 この男は、天地がひっくり返っても、吸い終わるまでは何事にも動じることはないといった様子であった。そのまま最後の一服まできれいに阿片を吸い終えると、煙管などの吸引道具一式をぼろぼろの上着にしまい込み、床からよろよろと這い出してきて、腰を屈めながらいそいそと出て行ったのであった。

 そして次の日の朝がやってきた。ちょうど授業に出掛けようとしていたところへ例のアカ族の男がやってきた。そしてこんなことを言い出すのであった。

「奥さん、私に何か食べ物を下さい。さもなくば竹を切る力もろくに出やしません……」

「なにを言ってるの!あげないわよ!」私が答えるよりも先に小吉が割り込んできた。

「あんた、うちの奥さんが人がいいのを見て、それでこうして食べ物や飲み物をたかってるんでしょう!」

「小吉。アカ族だって人間なんだから、そんなふうに言うのはよくないわよ」

私はそういって小吉を制止しながら、

「残り物の料理もご飯もどうせまだあるじゃない。それを彼に食べさせてあげればいいわ」

と言った。

 小吉はまだ納得できないといった様子であったが、

「この男はこうして大飯喰らいの怠け者のくせに、うちの奥さんみたいな優しい人を嗅ぎ分ける才能だけはしっかり持っているんだわ」

などとぶつぶつぼやきながら、不服そうに残ったご飯と料理をバナナの葉に盛りつけていたが、そのアカ族の男はそれを手渡すのを待たずに、台所に飛び込んできてその残り物をがっつく有様であった。

 彼は食べ終わるとその死にそうなぐらい汚れた手を伸ばして、こんどは水瓶のところにある瓢箪の水汲みをひっつかんで水を飲み始めた。小吉がまた苛立つ。その瓢箪の水汲みを奪い取って叫ぶのであった。

「ああもう汚い汚い。うちの水瓶が汚れるじゃないのよ。メーサロンの水汲みは大変なんだからね!」

もっとも、この話は本当であった。山の中の小さな山塞であるメーサロンでは、飲み水の手当は大問題であって、かなり遠くまで水を汲みに行かなければならないのであった。

「小吉。この人は水を飲みたがっているわ。コップに水を汲んで飲ませてあげなさい」

と私は言った。


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