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埃峩(アイオーという名の男) (3)


 私が映画を見て戻ってくるともう夜の九時を過ぎていた。小吉はすでに台所の裏にある使用人部屋に火を灯していて、間もなく就寝するところのようだった。

 私はベッドに横たわって本を読んでいたが、いきなり小吉が家の外で驚きの大声を上げて、私を呼んでいるのが聞こえた。

「奥様。大変です。早く来て下さい。台所に幽霊がいますよ!灯りがちらちら光ってるんですよ!」

 私はベッドから飛び起きて、懐中電灯を手に駆けつけた。このような辺鄙な山奥の山塞に住んでいる者であれば、夜の暗がりはそれだけで人を恐怖に陥れるものである。況んや、それに加えて得体の知れないものが蠢いているとなれば、なおさらのこと、神経が張り詰めるのである。小吉は私のそばにしがみつきびくびくしながら台所の方を指差しながら言った。

「奥様。ほら……あそこです」

 疏らに透けている竹壁の縫い目を通して、真っ暗なはずの台所に、やはり、なにやら光るものが蠢いているのが見える。私は驚きと恐怖で背筋が凍り、毛骨慄然、慌てながらも声にならないような大声を上げていた。

「李さん、李さん、早く来て下さい!」

 それほど遠くない場所に住んでいる李さんが、私の声を聞きつけ、すぐに駆けつけてくれた。李さん以外の二三軒の近所のみなさんも私の大声に驚いて目を醒ましたらしい。

 「どうした。何事だ!」李さんが聞いてくる。

 私は震えるばかりで、この情況をまともに説明することができないでいた。そこで小吉が代わりに台所を指差しながら説明した。

「台所に火の玉がちらちら動いているんです。見えませんか?」

 李さんにもまた、その火の玉のようなものが見えたのだった。彼は大きな声で怒鳴りつけた。

「おい、いったい何者だ。出てきやがれ!」

彼はそう言いながら台所の扉を押し開けた。我が家の台所は日頃から鍵を掛けず、ただ扉を閉じてあるだけであった。

 台所の中にいるその何者かは、ただ喉を鳴らしたもののこちらの誰何にはまるで答えようとしない。だが、静まりかえった台所の中からは、ぶくぶくという音だけが聞こえてくるのであった。

 李さんがお櫃の上に置いてあった包丁を手に取り、意を決したように勢いよく前に飛び出し、あたりを懐中電灯で照らした。だが李さんは、肩の力が抜けたような、なにやら気の抜けた声を出した。

「くそったれ。こいつはどこから来たアカ族だ。こんなところで阿片を吸ってやがる!」

 みなが群がるように台所に入り込み、何本かの懐中電灯で同時に中を照らしてみると、なんとあの夕方のアカ族の男が、小吉の寝床に横たわりながら、まるで遠くの風景を眺めているかのような恍惚の表情で、気持ちよさそうにゆっくりと煙を吐いているのであった。彼は私たちを見ても、別に慌てる様子もなく、ただ、考えるのが面倒くさいといったふうで、また引き続き阿片の吸引に没頭しているのであった。

 小吉は近くにあった木の棒を拾い上げると、怒りにまかせてこの男の太腿を思い切りひっぱたき、そして言った。

「この馬鹿野郎、出て行け!出て行け!私の布団が臭くなっちゃったじゃないか!」


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