スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 埃峩(アイオーという名の男)(1)全10回


 ちょうど太陽が西へ沈んだ黄昏時、私は家事をなんとか片付け終えたあと、子供を連れて映画を見るためちょうど家を出るところであった。薄汚れた襤褸を纏ったアカ族が一人、我が家の門を推し開け、首を伸ばすようにして庭を見回している。彼の身の丈はとても低く、垢にまみれて真っ黒になった顔の上に置いてある、目やにがべとべとにくっついて濁った眼を鋭く動かしている。何か欲しい物でもあるのだろうか。

 やはりというべきだろうか。彼は私に眼を止めると、多少逡巡したあと、こちらに向かって歩いてきた。そして、流暢な中国語で私にこう言うのであった。

「奥さん。こちらで何か手間仕事はありませんか。私はなんでも引き受けますよ!」

 だが、この頃のメーサロンでは、中国語を流暢に話せるアカ族といったら、ほとんどが嘘つきやかっぱらいの類だと思われるのが一般的であった。私は思わず眉をしかめてしまったが、どうやってこの男を追い返そうかと考えていて、そのうち我が家の敷地を囲う竹垣の一部が壊れていることを思い出した。新しい竹を切ってきて、その部分を修繕しなければならなかったので、軽い気持ちで彼に言ってみた。

「今日はもう暗くなっているから何もできないわ。あなた、よければ明日、太い竹を二本ほど切ってきてくれないかしら。竹は若すぎるのではだめよ。あと、太くてまっすぐなのを頼むわね」

そしてそう言い終わると、私は子供の手を引いてさっさと門を閉めた。

 だがそのアカ族の男はまだ私に纏わり付くように言うのであった。

「奥さん。私はずいぶん遠くからやって来ていましてね。まだ飯も喰っていないんです。何か食べる物をいただけないですかね」

 私はいよいよ面倒になってきたので、我が家の使用人を呼んだ。

「|小吉《シァオジー》、何か残り物はないかしら。もしあったら持ってきて、このアカ族さんに食べさせてあげて!」

 小吉はそれを聞いて残り物のおかずとご飯をかき集めてテーブルの上に置き、そこでバナナの葉にくるみ始めた。

 そのアカ族の男は一切の遠慮も見せず、極限まで飢えた人間のように台所へ直行すると、そのおそろしく汚れて黒くなった手を鍋の中に突っ込み、手掴みで鍋の中のご飯を結びにしては、大きな口を開けてばくばくと食べ始めたのであった。

 それを見た小吉が大声で叫び、そのアカ族の男を叱った。

「こらっ、あんた!鍋の中にそんな汚い手を突っ込んでご飯を食べるんじゃないわよ!」

彼女はそう叱りながら、ご飯が入った鍋を取り上げようとすると、そのアカ族の男は片手で小吉を押さえながら、その鍋を自分の胸の前に引き寄せて、おかずとご飯を手掴みでむさぼり食うようにしているが、その様子がこれまたこの世の極楽といった体なのであった。(訳注、麻薬中毒者がよくこのような状態になる)

 小吉は苛つきを隠せない。

「奥様。ちょっと来て下さい。このアカ族が……」

 私は台所のそばに立って、彼のこうした「お食事の様子」を見ていたのだが、どことなくおかしく、笑いを堪えることができなくなってきた。


埃峩(アイオーという名の男) (2)へ




関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。