【番外編2】北タイ・メーサロン 墓誌に刻まれた物語(5)

 
ビルマの内乱がさらなる南下を促す

 一九五三年バンコク四カ国会議での決議によって、シャン州に展開していた国民党軍兵力の大部分を台湾へ撤退させることに成功したビルマだったが、シャン州では地元勢力による別の問題の火種が起こり始めていた。

 ではなぜそのような火種が生じたのか。ビルマ独立前にパンロンで採択されたパンロン合意は、独立後のビルマ連邦に参加する各民族のうち、シャン、カチン、チン族の代表と、アウンサン将軍との間で交わされた合意である。この合意内容の細目については割愛するが、このシャン州の場合、重要なポイントは、この合意の精神に則って、ビルマの連邦制が謳われた一九四七年憲法には、シャン、カレンニー州について「独立後十年目以降の離脱権」を認めたことであった。そしてビルマは一九四八年に独立。つまり、一九五八年が、その十年目の年となる。連邦への失望感と独立への機運が漂う中、すでにシャン州では小競り合いが始まっていた。

 ケントゥンに住み、やっと生活も安定してきたA氏を襲ったのは、つまりこの内乱である。シャン州は元々、日本でいう小大名のような藩王国の集合体であって、英植民地ビルマの期間、その政治システムを温存したまま間接統治されていた(ビルマ族が多く住む管区ビルマは、英国ビルマ政庁による直接統治)。独立後もほぼ藩王国時代と同様に維持されていた彼らの藩王国が独立を志向した場合、憲法に記された離脱権を行使されるとなれば、あくまで連邦制を維持したいとするビルマ政府との間の確執は事実上避けられない状態にあった。

 また、シャン州内にはそうした藩王国のシャン族以外にも多くの少数民族がおり、彼らも同様に独立や自治権拡大を要求し始めると、シャン州の治安の乱れは大変なものであったことが想像される。やがて、こうした武装勢力に中には、共産主義を標榜して中国の支援を仰ぎ、闘争を続ける集団も出て来る。

 その中間には、ビルマを独立に導いた反ファシスト人民自由連盟の中で、大きな勢力を誇っていながら独立前後に袂を分かっていったビルマ共産党が介在していた。彼ら武装組織は、やがてビルマ共産党下に統合され、中国の支援を受けた強大な武装勢力となる。

 さらにその後だいぶ経ってから(インドシナ戦争の時期)、このビルマ共産党の影響力のシャン州南部への浸透と、タイ国内の共産主義勢力との合流が現実のシナリオとなる中で、それに対するタイ当局の懸念が、のちにメーサロンと国民党兵士たちの運命を大きく左右することになる。
柏楊【金三角 邊区 荒城】二十九 パータン戦役
柏楊【金三角 邊区 荒城】三十三 タイの脊椎を断つ


 ともあれそうした戦乱が、隊商を営むA氏の商売に影響しないとはまず考えられない。彼らの通り道は武装勢力の補給路でもあり、また、兵員が移動する道でもあった。同時に、鎮圧する側であるビルマ国軍についても同じ事がいえる。物資の調達なども影響を受けたことは想像に難くない。

 もう一度、墓誌の記述を読んでみよう。

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“結婚後はケントゥンと北タイとの間を往復しながら商いを営み、苦労して経営を続けながらも数年のうちに生活は安定してきていた。だが、その後に起こったビルマ国内の内乱を避けるため、一家を挙げてさらに南へ移動することになった。やがてタイ国メーサロンに居を定め、この地にて第六組組長に任じられたが、不幸にも街に出た折りに匪賊に襲われて落命したのであった。”《墓誌の第二段落部分》
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 この内乱によって生活が成り立たなくなったのだろうか、それとも命の危険にさらされたのだろうか。いずれにせよ、A氏の判断は「これ以上この土地に住むことはできない」そして「さらに南下する」というものであった。

 つまり、A氏は第四の人生を選択することを決意したことになる。

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