シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 阿卡花(アカ族の花)(11)

 
 先に死んでいったもう一人の赤ん坊は、つまりはそのときアンウォーに叩き殺されたのであった。だがアイナは残されたもう一人の我が子を救うべく、胎盤もそのままに、それどころか、臍の緒も切らずに逃げてきたのであった。

 二人目の子供が母体を離れたときに、彼女はすぐに抱き留め、せり出してくる胎盤と共に一目散に逃げ出し、山を越え谷を越え、逃げに逃げた。山林に逃げ込み、空が暗くなるのを待って、彼女は自らの歯で臍の緒を噛み切り、自らの胎盤を丸呑みして飢えを凌いだ。そして、自らの衣服を脱いでその子をくるみ、身を隠しながら一路メーサロンを目指して逃げ延びてきたのであった。

 だが、やがてアンウォーは彼女たちを見つけ出した。そして、掟どおりに双子の片割れを叩き殺したということなのであった。

 私はついに合点がいった。そうだ。あの日の朝、血が滴り落ちていたバナナの葉にくるまれていたのは、叩き殺されたばかりのあの子だったのだ。

 こんなことがあっていいのだろうか。私はこの話に毛骨慄然とした。

「彼はどうして自分の子供を殺すことができるの?」

私は忿懣やるかたなく思わず大きな声で叫んでいた。

「その掟です。一度に二人の子供が生まれたら、それは子供ではなく妖怪の生まれ変わりなんです。私たちアカ族にとっては、その子たちを生かしておくことはできません。先生。私は漢人はそうは考えないことを知っています。ですから私はあの子を抱いて逃げてきたんです……」

 アイナは悲しみを堪えきれない様子であった。私は彼女に言った。

「そうよアイナ。私たち漢人は、もし双子が生まれたら『|雙喜臨門《シュアンシーリンメン》(訳注、二つの喜びが我が家に訪れた)』と呼んで、かえって喜ぶぐらいなんだから。いいことアイナ、もし次に双子が生まれてくることがあったら、決して忘れないで。アカ族の伝統や習俗なんてどうだっていい。すぐに漢人の家へ養子に出してしまうのよ。それがだめなら、孤児院に引き取ってもらうといいわ!」

 それを聞いたアイナは逆に表情を強ばらせてしまった。そしてそれが現実となることに恐れを抱いているのか、慌てて打ち消すように言った。

「だめです。だめです。そんな!私は二度と双子なんて生みません。絶対にそんなことは二度とないんです。先生、そんな恐ろしいこと、間違ってもあってはならないことなんです。だからそんなこと言わないでください。お願いです……」

 取り乱して哀願するアイナの様子を見ていると、まるで私が呪いの言葉を投げつけてしまったようにも思えてきた。

 やがてアンウォーが水汲みから戻ってきた。もう私に言えることは何もなかった。


シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 阿卡花(アカ族の花)(12)へ




関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR