シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 阿卡花(アカ族の花)(10)

 
 アイナはやっと話してくれた。

 しかし私はそれを聞いてぽかんとしてしまった。眼を見開いたまま彼女を見ているしかなかった。しかしそれにしても、いつの間にかそんな状況になっていたとはまったく気付かなかったのである。

「どうして?あの子、ずっと元気だったじゃない」

アイナは悲しそうに溜息を付いた。そして、

「あの子はアンウォーに叩き殺されてしまったんです」

 アンウォーとは例の役立たずのアカ族のダメ男、つまり、新しい夫の名だ。

 前夫の子供を受け止めることもできない、このダメ男アンウォーに対してこみ上げてくる抑えきれないこの憤り。これが怒らずにおられようか。このように愚昧なアカ族とは、詰まるところそれでも「人」と呼べるのか。

 向かい合って沈黙することしばし、私が切り出した。

「アイナ。あなたがもしこのアンウォーを選んで、自分の子供のことなどどうでもよいのだとしたら、あなたとんでもないことをしているのよ」

「先生。あなたにはわからないんです。私は逃れることなどできないのです。私は全力を尽くしてあの人から逃げたつもりだったんです。この人は、すでに一人目の子供を叩き殺しているんです。あの日、あの人がその赤ん坊を殺したとき、私はもう一人の子を抱いて、やっとの思いで逃げ出してきたんですから」

さらに続けて言った。

「先生。私が生んだのは双子の赤ん坊です。二人同時に生まれてきたんです!」

 私はだんだんこんがらかってくる話についていけなくなってきていた。彼女が話している間、私は彼女が何を言い出したのかさっぱり理解できなかった。私は彼女の話の腰を折ってでも、あえてもう一度割り込まなければならなかった。

「あなた、つまり、こういうこと?あなたは双子の赤ちゃんを産んだ。そうでしょ?それと、あのアンウォーはその人、つまり前の夫。そうじゃないかしら?」

 アイナは激しく頷いて答えた。彼女は声を上げて大泣きするものかと思っていたが、彼女は一滴の涙すら流さずに答えたのだった。

「私は逃げて逃げて、そのあともずっとずっと隠れていたんです。ですが私にもわかっていました。そもそも逃げ切れるはずなんてなかったんです。アカ族の双子は、決して逃れることはできないんです。アカ族の掟では、一度に二人の子供が生まれたら、それはつまり妖怪の生まれ変わりです。双子は殺さなければなりません。私も今まではそう信じていました。でも、生まれてきたこのぷっくりとした我が子を見ていて考えが変わりました。この子たちは私の子。絶対に妖怪の生まれ変わりなんかじゃない。私はそう思って、生き残った一人を連れて逃げてきたんです……」


シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 阿卡花(アカ族の花)(11)へ





関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR