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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 阿卡花(アカ族の花)(8)

 
 ある日の夕方、意外にもアイナの住む草屋の方から男の話し声が聞こえてきた。気になった私は様子を見に行った。いったいどんな客が来ているのであろうか。

 アイナの草屋の入り口が開けっ放しになっている。三十過ぎの小男が、竹の床に横たわって|煙管《きせる》をふかしているのが見えた。そしてアイナはいつものように子供をしっかりと抱きしめ、少し離れた場所に座っている。

 私は漂う阿片の煙の臭いにむせかえり、思わず吐き気を催してしまい、それ以上近付くことができなかった。仕方なく門の傍らでアイナに声を掛けた。

「アイナ。お相手が見つかったのなら私にも一声掛けてくれればよかったのに!」

 だが彼女は黙してなにも答えなかった。ただ私にはさっぱり意味がわからないアカ語でこの男となにやら話しているだけであった。そして私にぎこちない笑顔を向けたが、なにやら作り笑いのような感じがしないでもない。それとも恥ずかしがっているのだろうか。そのとき私は特に気にも留めなかったが、あとで思い返してみれば、彼女は笑っていたのではなく、心の中の悲哀と、何もできない情況にただ苦しんでいるだけではなかったのか。もともと私は強度の近視であり、それに、私は彼女が新しい夫に巡り会えたのだと勝手に思い込んでいたために、そのときは彼女が笑っているものとすっかり勘違いしていたのかもしれなかった。

 アカ族の交際は至って自由なものである。彼らは別れるといえばすぐに別れ、くっつくといえばすぐにくっつく。したがい、私はアイナがまた新しい伴侶を見つけたのだと考え、何も不自然なところはないと思っていたのであった。

 だが私にはあの阿片の煙の臭いだけは耐え難いものだったので、そそくさと家に戻っていったというわけだった。

 その次の朝、私はなにか重いものが崩れ落ちるような鈍い音と共に目覚めた。そのあとさらに、アイナの押し殺したような啜り泣きが聞こえてきた。さらにおそらくあのアカ族の男の声であろう、彼がアイナを怒鳴っているとおぼしき声も間断なく入り交じって聞こえてくる。

 新婚間もないのに、どうして口喧嘩などしているのであろうか。

 午前には授業がある。私は慌ただしく本をひっつかんで家を出たが、そのとき、例のアカ族の男が草屋から出て来た。彼の手にはババナの葉でくるんだ何かが見えたが、その刹那、私は血液のようなものがそのバナナの葉の包みから滴り落ちたのが見え、それが気になっていた。

 彼はそのまま山の方へ向かってそそくさと去っていった。彼の歩みはとても速く、あっという間に彼の後ろ姿は樹木に遮られて見えなくなっていた。私は授業に間に合わせるために忙しく、そのことについていろいろと考えることはなかったのである。

 その後しばらく経っても、アイナの子供の泣き声が聞こえてくることはなかった。ある日、私はアイナとあの男の出入りを注意深く観察していたが、やはりあの子の姿はいつの間にか見えなくなっている。

 アイナが薪を切って家に戻ってきたのを見計らい、私は彼女を引き留めて尋ねた。

「ねえ、アイナ。あなたの赤ちゃんはどうしたの?」

 そして、きつい眼光であの男の方を見つめ、彼を指さしながら、

「もしかしてあなた、赤ちゃんを売って彼の阿片を買ったんじゃないでしょうね?」


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