シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 阿卡花(アカ族の花)(5)

 
 その様子を見た私は、友好的な笑みを浮かべて彼女に接した。

「どうしたの、あなたアイナでしょ?私がわからないかしら?」

 彼女はやっと情況が飲み込めたようで、木訥に頷きながら小声でぼそりと言った。

「あ、あなたは、もしかしてあのときの先生ですか?」

「そうよアイナ。なんかすっかり疲れ果てているように見えるけど、いったい何があったの?さあ、その背中の薪をさっさと下ろして、とにかくうちへ入って一休みしていって!」

 私は努めて快活に振る舞い、そして明るい声を出した。

 彼女はその重そうな薪を、我が家の薪置き場に積んである薪の山の上に慎ましく置き、腰をかがめて肩をすぼめるようにしながら私の前に来たが、憐れなまでに怖じ気づいているのか、どうあっても私の家の中に入ろうとしないのであった。

 私が再三にわたって家に入るよう執拗に催促し続けて、彼女は意を決したようにやっと敷居を跨いだのであった。それでも胸の子供はしっかりと抱きしめて離さない。まるで誰かに奪われないよう警戒しているかのようであった。

 彼女がまだ何も食べていないことがわかり、私は彼女の手を引いて台所へ連れて行った。私がいろいろと世話を焼いているのが彼女にも伝わったのだろうか、アイナの緊張は少しずつほぐれてきているようにも見える。だがそれでもまだ彼女の緊張が完全にほぐれたというわけではなかった。彼女の眼は間断なくきょろきょろと動き、不意に風が吹いて草木が音を立てただけでもびくついて子供をぎゅっと抱きしめたりした。彼女は口数も少なく、私に対して明かに畏敬の念を抱いているかのようであった。だがそれによって私と彼女との間にある埋めがたいほどに遠い距離が感じられ、またそれは私の心の中に、得も言われぬ違和感を芽生えさせていた。そうした浅薄なことで優越感に浸ったりするような安物の人間ではない。少なくとも私自身はそう思い込んでいたからだ。

 私は引き続き努めて顔には喜びの表情を浮かべるようにして話し続けた。ひととおり尋ねるとだいたいのことがわかってきた。昨年、アカ花が咲いた頃、たしかに彼女は離れた場所にある山村へと嫁いでいったのだ。だが、ではどうして今ごろメーサロンに来ているのかと尋ねると、彼女はその男に叩き出されたため、糊口を凌ぐためにメーサロンへ薪を売りに来ているとのことであった。

「あなたの旦那さんは、どうしてあなたを叩き出したりしたのかしら?」

私はいつの間にか同情するような口調になっている。

 彼女はまた本能的に子供を抱きしめた。そして救いがたい境地に置かれた者がよくやるように、とても悲しい目をして私を見ているのであった。それを見て、それ以上聞くことは憚られた。彼女が言いたくないなら無理に聞くことはないのだ。

 彼女は出された食事を済ませると、子供を抱えて、暇を告げた。私は彼女に二十バーツのお金を渡した。さらに練乳の缶二本と袋入りのビスケットを何袋か渡して、またいつでも好きなときにうちへ来るように念を押し、彼女は心持ち嬉しそうに我が家を去っていった。

 その翌日の昼過ぎのことだ。私が帰宅すると、意外にも|糸瓜《へちま》棚の下にアイナが立っている。その様子から察するに、彼女はすでに長いことその場にいたのではないだろうか。


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