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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 阿卡花(アカ族の花)(4)

  
 さて、メーサロンでは、このアカ花は冬の終わりに開花する。そして、山も野原でも一斉に開花して到るところこの黄色の花で埋め尽くされる。青く透き通った空の下、この可愛らしい黄色い花が艶やかな対比をなし、荒れ気味の山野は絢爛な情景に包まれるのである。

 メーサロンにいる私は、そのアカ花の開花を見て、あのアカ族の少女のことを思い出していた。そう、アイナである。彼女のめでたい婚礼はもう済んだであろうか。私は毎日彼女が遊びに来ないかと首を長くして待っていたし、実は彼女への贈り物も用意してあったのだ。

 だが、そのうちアカ花は枯れてしまったのであった。それでも、アイナたちは一向に来る気配がない。もしかしたら彼女たちはメーサロンには来たものの、私の家がわからなかったのだろうか。それとも彼女はどこか遠くへ嫁いで行ってしまったのであろうか。もともとは一期一会の偶然の出会いであり、相手は山岳民族である。しばらく経つと、いつの間にか私もこのことを忘れてしまっていた。

 そして次の年の雨季がやってきた。食事を済ませた夕暮れ時、ちょうど私が服を洗濯しているときのことであった。一人のアカ族の女性が我が家の敷地の入り口のあたりに立ち、怯えたように小さな声で、「奥さん、薪はいりませんか?」と言っているのが聞こえた。

 私は洗濯中の服をそそくさと置き、両手には洗剤の泡をつけたまま門の方へ出て行った。すると、ぼさぼさの髪に垢まみれの顔の一人の年若いアカ族の女性が立っていた。胸には丸々と太った子供を布でつり下げていて、背中には重そうな薪の束を背負っている。着ている薄い衣服からは中身が透けて見えそうだ。褐色を帯びている雨水が髪や首筋に沿ってせり上がった胸元まで滴り落ちている。そしてこの薄汚れた不衛生な子供は、やはり同じように薄汚れているこの乳房を無心に啜っているのだが、おそらくこの雨水とともに吸い込まれているに違いない。

 このアカ族の女性の顔には、怯えているかのような雰囲気と期待が入り交じった表情が浮かんでいる。そうした不安を隠しきれないその両眼で敷地を見回している。そして私が奥から出てくるのを見た彼女は声を低めて怯えたように、「奥さん、薪はいりませんか?」とまた聞いてきたのであった。

 このアカ族の女性は人がよさそうな顔をしている。しかし、その表情には風雪に耐えてきた人間が持つ苦労のようなものが染みついている。そうした辛い日々の風貌は、かつてこの女性がさまざまな厄介ごとや苦労を味わってきたことを伝えているかのようであった。特に私の心を打ったのは、前に子供を抱いて後ろに薪を背負うその姿であった。しかも、こんな大雨が降るなか、足下だってぬかるみに足を取られたり滑ったりするに違いない。アカ族の生活は実に辛く苦しいことは想像に難くない。

 「入っていらっしゃい」そう声を掛けた私は、すぐに彼女が誰であるかわかった。アイナであった。そう、あの三叉路のアカ族集落にいた、あのアイナである。

 ちょうど一年ぐらいのご無沙汰であったろうか。あの美しく艶やかなアカ花は、すっかり枯れ果ててしまっているようだった。黄土色になってしまった顔からは、以前会ったときのような健康な赤みはすっかり消え失せていて、見るからに憔悴しきっているといったふうなのだ。

 彼女も私を思い出したはずであったが、まるで気付いていないようにも見えた。警戒するように注意深く私を眺め回している。だが若干慌てているのか、戦々恐々として何か大事に巻き込まれたような慌てようであった。


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