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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 阿卡花(アカ族の花)(3)  

 
 そのときであった。先ほどの二人のアカ族の少女が現れた。一人は急須いっぱいの熱いお茶を持ち、もう一人はご飯の入った鍋を抱えて持ってきてくれた。私たちをもてなしてくれるということらしかった。この優しさには感動を禁じ得なかったが、二人が虱を食べている一幕がまだ脳裏に焼き付いており、食欲らしい食欲など一切湧いて来るはずもないし、ましてやその彼女たちの食べ物を口にすることなど、とうていできない相談であった。だがそれでも謝意は表さなければなるまいと思い直し、また、先ほどのメーサロンまで荷物を担いでくれるという取引が成立しなかったことに配慮して、彼女たちに十バーツを渡した。さらに、私たちが携帯食料を持っていると伝えることにした。彼女たちは自分たちのもてなしが受け入れられなかったことを残念がっていたようだが、私の気持ちを善意に解釈してくれたようで、とりあえずお金は受け取ってくれて、そのおかげで私の気持ちは少々軽くなったのであった。

 大きい方の少女が自分から話しかけてきた。彼女の名前はアイナという。アイナとは、アカ族の花というほどの意味らしい。彼女こそは、アカ族の間ではいわゆる典型的な美人とされる少女で、やはり、あの村長の娘であった。彼女たちは私が教師であることを見抜いていたらしく、十分な敬意を払いながらも、私が悪い人ではないと思ったので、敢えて話しかけてお近づきになりたいと思ったのだという。

 彼女たちがこうした優しい気持ちを持っていることがわかってくるにつれ、私の心の中には慚愧の念が生まれていた。私は結局心の底では彼女たちの不衛生さをとことん嫌っていたのではなかったか。それに比べて彼女たちの天性のなんと純朴なことか。私はそう思い直してみると、いつしか心の底から彼女たちと付き合ってもよいと思うようになっていた。そして、彼女たちをメーサロンにお招きすることにしたのである。

 だが私には、彼女たちに言うべきことがあった。なぜなら彼女たちの容貌は、それはそれはとても美しいのである。とくに、アイナに到っては、まるで映画女優の|湯蘭花《タンランホゥア》にそっくりなのであった。私はメーサイで買ってきたばかりの石けんを一つずつ彼女たちに手渡して言った。

「ねえあなたたち。毎日石けんを使って体を洗ってみたらいかがかしら?それに、清潔な衣服に着替えてみるのもいいと思うわ。もっともっと美人になれるわよ!」

 それを聞いた彼女たちは大はしゃぎであった。とても嬉しそうである。珍しいのか、この石けんを鼻の近くにかざして、くんくんとその香りを楽しんだあと、喜び勇んで四阿を離れていったのであった。

 空はもう、伸ばした手の指が見えなくなるほど真っ暗になっていた。私は買ってきたばかりの化繊毛布を引っ張り出し、子供たちと共にその中にくるまった。耳を澄ますと、しとしとと冷たい雨が降る音と、ひゅーひゅーと寒風が通り過ぎる音がと聞こえてくる。こうした長い夜をやり過ごすのは、決して容易なことではなかったのだ。

 そうしてやがて二日目が来た。雨はほぼ止んだようだ。いろいろと親切にしてくれるアイナは、私たちのためにずいぶんと遠くから三匹の馬を引いてきてくれた。一匹には二人の子供を乗せ、一匹には荷物を載せ、残りの一匹には私が乗るのである。こうして私たちはこの困った情況からやっと抜け出ることができそうであった。

 出発の時を迎えた。私はアイナと、彼女たちがいつの日かメーサロンに遊びに来てくれるようにと約し、彼女たちは力強く頷いてくれたのであった。

 そのとき、アイナがこの集落の周囲に咲いている何ともいえない異臭を放つ植物を指さしながら私に言った。

「先生。ほら。これを見て下さい。この花が咲く頃には私は花嫁になっていると思います。きっとその頃に、メーサロンへ行って、先生を訪ねようと思います」

 その植物の枝と花はなんとなくひまわりに似ているといえなくもない。開こうとしている黄色い花びらが見え、そして、鼻を突く強い刺激臭がある。なぜかはわからないが、アカ族はこの花を大切にし、そして心から愛でるという。ちょうど我々漢人がこの花を「アカ花」と呼んでいるのであるが、それはつまり、その臭いが感じられないくらい遠くから見ていれば、とても美しく愛でることができるという暗喩でもあった。

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