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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 阿卡花(アカ族の花)(2)

 
 この二人の少女に背負われると聞いた上の子は、びっくりして泣き出した。私の後ろへ身を躱し、

「私はアカ族におんぶしてもらいたくないよ。だってアカ族はものすごく臭いんだもん」

と、泣きながら訴えている。

 しかし実を言えば、このアカ族の少女たちは、二人とも揃って秀麗な美人であった。顔はきりっとしていて、両方とも瓜実顔だし、ぱっちりとしたアーモンドのような両眼。眉毛は黒くて長い。鼻はすっと通っていて唇は小振りで、美しい褐色の肌はある種、野性の美とも言うべき美しさを備えていた。とくに、大きい方の少女は、おそらく十六、七歳、無駄がなく引き締まった豊満な肉体からは、青春のど真ん中を生きているという渙発さが感じられた。ただ、惜しむらくは彼女たちがどう見ても清潔でないことであった。

 アカ族のような山岳民族は、体を洗うという習慣がほとんどないし、衣服に到っては、新しい衣服に袖を通してからどんなに汚れても洗濯するということをしない。そして服がボロボロになったら、そのときはそれを脱ぎ捨てて新しい衣服を着るといった具合であった。こうして、アカ族が現れると、その場にはあの独特な異臭が遠くからでも漂い始め、みな呼吸するのも困難になるほどであった。本来ならとても美しいはずのこうした少女たちにしても、残念ながらこの不衛生な習慣によって、その美しさは一気に色褪せてしまうのであった。

 できるだけ早くメーサロンへ帰り着きたい。私は嫌がる子供をどやしたり脅したりしてアカ族の少女に背負わせようとするが、子供はなかなかしぶとく反抗する。だが私は有無をいわせず大きい少女の方にさっさと背負わせた。娘は泣き喚き続けている。そして、せっかく背負わせたにもかかわらず、長く伸びきった飴のようにするりと滑り落ちた。私はまた娘を抱き上げてアカ族の少女の背に押しつけた。

 だが不意に、濡れそぼった彼女の髪の毛の中から丸々と太った虱たちがぞろぞろと出て来たのを見てしまった私は、思わず毛骨慄然とし、子供たちをこの少女に預けることを諦めるしかないと覚ったのであった。

 私は子供たちを背負わせるのは申し訳ないなどと適当な言い訳をこしらえて、この申し出を鄭重に遠慮させていただくことにした。腹をくくってここで一夜を明かすことにして、翌日また改めてうまい手を考えることにしたのだ。

 この二人のアカ族の少女にしても、とくに粘ってまで我が子を背負おうとはしなかった。彼女たちは中国語ができたので、私との他愛もない世間話にしばらく付き合ったあと、二人で並んで腰掛けてお互いの虱を取り始めたのであった。

 それにしても彼女たちの虱の多さには驚きを禁じ得なかった。束ねてある髪を下ろすと、もうそれだけで虱の幼虫が花粉のようにびっしりと付いているのが見えた。彼女たちはお互いの虱を捕っては一匹また一匹と口の中に入れ、それをびちゃびちゃと音を立てながら咀嚼しているのであった。

 私はその傍らにあってその様子を眼にした途端、思わず吐き気を催してしまった。口中の唾を吐き出して、眉を顰めながら彼女たちに言わなければならなかった。

「あなたたち、どうして虱なんか食べるの?とっても不潔よ!」

 だが彼女たちは気にする素振りもなく、あっさりと答えるのであった。

「どうして汚いんです?虱は人間の血を吸っているんだからきれいですよ。でも、牛馬や豚、鶏はどうですか?もっと汚いじゃないですか。だって、人間の大便を食べているんですよ」

 そうやって話しながらも、彼女たちは休むことなくさらに数匹の虱を食べていた。まったくもう。私は本当に吐きたくなってきてしまい、全身の毛穴という毛穴が引き締まって鳥肌に変わり、そのまま頭皮までおかしくなりそうであった。だが外はまだ大雨が降っているし、他に行き場もない。私は眼を閉じてこの二人のさまを見ないようにすることが精一杯であった。

 彼女たちは構わず虱取りを続けている。汚れて粘り気が出ている頭髪、まるでご馳走のように虱を食べ続ける二人。どうしてここまで楽しそうなのだろうか。

 私にとってこの一幕は、ほとんど生き地獄のごとき「新しい世界」を見せつけられているに等しいのであった。

 やがてめぼしい虱が見当たらなくなると、彼女たちは虱取りを終えた。そして、彼女たちの家で一夜の宿を取るように熱心に誘われたのだが、これはさすがに断らざるを得なかった。

 空はどんどん暗くなってきた。雨は相変わらず降り続いている。私たち母子三名は、この四阿の竹の床の上で固まっていた。そして、備え付けの水瓶の水を飲みながら、メーサイから持ってきたパンをかじって飢えを凌いでいた。


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