シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 風猴乾(猿の干物) (4)

 
 鄒冲は自分がまずい立場に置かれていることを微妙に感じ取り、さらに、自分の顔が潰されたことに怒りを覚えているようで、それが表情に表れている。彼は不意に猿が繋がれた木の枝をひっつかむと、観衆たちの輪を抜けて歩き出した。木に繋がれている母子の猿はいきなりのことに驚き、狂ったように喚きだした。まるで周囲の人々に助けを求めているかのようである。

 祥林さんの怒りはさらに激しくなっている。袖を捲り上げ、今にも始めるぞといった感じである。

「あんたが買うというなら無理に止めはすまい。だが、あんたはこの猿を買って、そのあとで一体どうするのか。せめてこれだけははっきりさせてもらおうじゃないか」

 鄒冲の顔がみるみる青ざめていった。木の枝を振り回して前にいる子供たちを払い除け、ぞんざいな口ぶりで言った。

「そうかいそうかい。おまえ何様のつもりだ。君子が人のものに手を出すとはな!その上わしが買ったものをどうするかなどと、おまえの知ったことか!」

 祥林さんはこの不遜な言い方を聞き、すぐに言い返した。

「はっきりするんだ!この二匹の猿を買い取って野に放つのでなければ、誰もこの猿を買うべきではない」

「ほうほう。売り手も買い手も問題ない。おまえさん一人が気に入らんというわけか。メーサロンの掟はおまえさんが決めるわけではなかろう。いちいち他人のことに首を突っ込むな!」

鄒冲は旗色が悪いとしても、きっちり言い返したのであった。

「おれがそうだと言ったらそうなのだ」祥林さんも負けてはいない。強く言い返す。

 観衆は沸き上がり、みなが祥林さんを助勢している。

 だが、さすがに鄒冲は狡知にかけては大したもので、群衆の怒りに一人では対処できないことを知っている。それに、本当に手を出してしまったら、腕力で祥林さんに敵うはずもない。「形勢が不利なときにはまずは譲っておけ」と諺に言う。鄒冲は怒りを腹にしまい込み、気合いで負けていることを隠すために、一種間の抜けた雰囲気を演出したのであった。そして、自分の都合を一個一個数え上げ始めた。

「おまえさんが生き物を大事にするらしいな。陰功陰徳というからには人に見せるためにやるものではないのだ。わしはこのアカ族の男の三日分のおかず代になると思ったから、この二匹を買い取る。そして野に放つのが目的なのだ!」

 祥林さんは筋が通ればちゃんと収めることが出来る爽快な人物である。鄒冲がこのように言うのを聞いて、逆に申し訳なさそうに訥々と言った。

「そういうことなら誰が買おうと同じだ。私もこの二匹の猿の命を助けたいだけなので、野に放つのが、表立ってか裏でかということはどちらでもよい」

 しかし聞いている人々は半信半疑で、鄒冲を正面から見ようとはしない。だがまだやはり安心できないのか、誰かが、

「鄒さん。じゃあ、どうして今ここで放してあげないんですか?」と聞いた。


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