シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 風猴乾(猿の干物) (3)

 
 鄒冲は得意気にアカ族の男に眼をやると、ゆっくりと道理を説くような口調で言い出した。

「この男はあっちの方からやってきて、わしが一番最初に見つけて駆け寄っていき、すぐに話を付けたのだ。大小合わせて三十バーツ。金はすでに全部払ってある」

「三十バーツで二匹の生き物を買うって?それはずいぶん安いじゃないか。おい、アカ族さんよ。おれがおまえに六十バーツやろうじゃないか。それでおれに売ってくれんか。おれはこの猿の親子を買い取って、野に放してやりたいんだ」

祥林さんの問いは、慷慨しているようである。

 野に放つ。これはなかなかいい考えだ。私も祥林さんのその考え方に賛成である。

 「そうだ野に放て、野に放て!」

観衆たちも徐々に興奮し始めている。おそらくみなの考えは一致している。これはある種中国人のあらゆる動物に対する伝統概念であった。おおよそ幼児を哺育しているか、子供がお腹の中にいる動物に対しては、それを害することは義に反するというものである。

 やがて、他にもより高い額を提示する人なども出てきてしまい、そのアカ族の男は明らかに動揺し始めているようであった。

 鄒冲は思いがけない情況の出現に、怒りを込めて祥林さんを睨み付けた。彼にしても、より若く力もある祥林さんと正面から事を構える度胸などない。彼はその目標をアカ族の男に向けた。鄒冲は彼を指さして、露骨に脅すような言い方で、

「おれは確かにおまえとちゃんと約束したはずだ。勝手に考えを変えてはならんぞ!」

 だが、この一言が祥林さんの典型的な「湖南産騾馬男子」の怒りに火を付けた。彼は一旦ものごとに真剣に取り組むと、初志を貫徹する男である。彼の頬が紅潮して、首が太くなっている。そして百バーツ紙幣を取り出すして、このアカ族の男に言った。

「おい、アカ族さんよ。この百バーツを持って行け。この二匹の猿はおれが買い取る!」

 このアカ族の男は漢人との付き合いが長いようで、両方ともむげには断れないことを知っている。そのためただ右往左往しては苦しそうに苦笑いするばかりで、どうしてよいかわからず、手の施しようがない感じであった。

 「祥林さんに売れよ!」

 「そうだ、そうだ。祥林さんに売れ!」

 周囲で見ている大人も子供も、一斉に囃し立てる。


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