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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 風猴乾(猿の干物) (2)

 
 たしかに、自分とは違う生き物の手に落ちたのだから、恐ろしくないはずがない。しかし、自らの子供のために、この母猿は自らの危険を顧みずに飛び込んだところを捕まったのである。自分の子孫のためなら、たとえ火の中水の中という天性の母性本能から出た結果であり、これに感動しない人間はいないだろう。

 子猿が腕を伸ばして背中を掻こうとしている。母猿はそれを見て子猿を膝の上に置き、思いやりたっぷりに子猿の毛に潜んでいる蚤を取ってあげている。突然の環境変化の中にあって、その泰然とした動作は、まるで子猿を慰めて安心感を与えているように見える。

 ちょっとしたことがあると、母猿はすぐに子猿を抱きしめる。こうした母猿の行動を見ていると、まるで、大丈夫よ、空が落ちてきたってお母さんがしっかり抱いているからね、そんなふうに言い聞かせているようであった。

 私はそうした様子にいちいち感動しながらこの猿の親子見ていたが、突然母猿が顔の向きを変えたときに、何とも形容しがたい、だがまるで人類のような悲しそうな表情が見えたのであった。そのどうにもならない苦痛の様子は、こうした不幸が我々人間にも起こりうるような気持ちにさせる。戦いが止むことのない荒野、煙が燻る瓦礫の山。困り果てた一人の母親は泣き喚く子供を一人胸に抱いて、侵略者に抗う術もなく、すべてに疲れ果て、ただ怯えて震えるしかない。無言の哀愁が沈黙の中の悲しみに重なる。神よ!私の子供をお助けください!

 俗に、血は水よりも濃いという。そんな言葉を地でいくような、この母猿がもつ天性の母性。それはあらゆる動物が等しく備え持った本能である。だからこそ、いまここで値段がつくのを待っている母子の猿は人々の同情を買い、人々は彼ら猿の母子の運命を案じているのであった。

 私は惻隠の情に駆られてしまい、しばらく呆然となっていた。祥林さんが操る湖南訛の大きな声が聞こえてきた。

「なあアカ族さんよ。この二匹の猿だが、一体いくらで売るつもりなんだ?」

 だが、そのアカ族の男が答える間もなく、横に立っていた鄒冲が陰険な口調で答えた。

「聞くまでもない。わしが買い取ることにした」

大局はすでに決し、もはや議論の余地なしといった口ぶりであった。

「あんたが買ったのか?」

祥林さんの顔にはいかにも意外といった感じの表情が浮かんだ。

「あんたいつ買ったんだね?」

実際、今ここにいる人々は誰一人として、鄒冲がこのアカ族の男とやりとりをするところを見ていないのである。


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