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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 龍鳳呈祥(きっといいことがあるさ)(10)最終回

 
 朦朧とした夜の景色の中、孔三元が我が家の壁に沿って入り口の方へ歩いてきた。彼は雨水が滴るビニールの布をかぶっていた。つまり彼は、ずっと家の近くの竹垣のあたりに立っていたことになるが、我が家の敷地へなかなか入ってこようとしない。

「孔三元、早く入っていらっしゃい。外は大降りじゃないの」私は彼に呼びかけた。 

「それに、まだ時間も早いわよ。八時じゃない」

「だめですよ。先生。また明日参ります」孔三元は立ち去ろうとしている。

「ところで、あなたの病気の具合はどうなの?」私は急いで聞いた。

「だいぶよくなりました。先生のおかげですよ。先生、先生も泣いちゃだめですよ。なるべくすっきりと考えるんですよ。またこんど来ますからね!」

孔三元はそう言いながら、振り返りもせず帰って行った。

 彼の影はすぐに暗闇へと吸い込まれていった。泥がいっぱいはねてこびり付いている彼の足。その足音もよく聞こえなくなった。そして私は門を閉めた。

 空が白んで来た。だが夫はまだ帰ってこない。私はいつものように市場へ食材を買いに行く。私が家の敷地を出たところに、いきなり人が門柱の側にうずくまっていた。

 しかしじっくり見てみると、私は思わず叫んでいた。
「孔三元、あなた一体」私はその先の言葉を飲み込んだ。

 眠気で朦朧としている孔三元が、ゆっくりと頭を上げたが、その顔は疲れ切っていた。彼は口元に笑みを浮かべながら言った。

「先生。先生が幽霊をすごく怖がるってみんなが言ってた。それで、先生が恐がりなのを知ってたから、ここで門番をしていたんです。私が番をしていれば、幽霊も怖がって近付いてこないですよ」

 敷地の入り口のあたりには大きな水たまりがある。地面の上の湿り気は染みわたるようだったに違いない。だが、そんななか、彼は薄手の軍服にビニール布をかぶり、寒風と冷たい雨に一晩中打たれながら、こうしてここに立っていたのであった。

 孔三元こそは守り神であった。どうして私にここまでしてくれるのだろう。私はまた泣きたくなってきた。

 彼を眺めていると、私はただもごもご言うのみで、言葉らしい言葉が出てこない。

 「へへっ。先生、気にすることはないですよ。私たち兵隊は寝ずの立哨には慣れたもんです」

孔三元は相変わらず笑っている。本当に純粋な子供のような笑顔であった。

 おそらくは、彼がしばらく守っていれば、夫がすぐに帰ってくると思っていたのかもしれない。

 私も一人の夜に慣れなければならないと思った。しかし、彼の好意には感激した。

 私は深呼吸して、力を込めて涙を堪え、声にならない声で彼に聞いた。

「孔三元、あなたの病気の具合はどうなの?」

 孔三元は手を伸ばして、だいぶ腫れ物が引いた彼の顔を撫でている。

「先生、見えるでしょう?だいぶよくなりました。そうでしょう?みなは私が太ったって言ってますよ」

 孔三元は確かに以前より太って見えた。

 私は息を大きく吸い込んで言葉に出した。

「私はずっと心配してたのよ。あなたに大変な冒険をさせてしまったから!」

「心配することなどありませんよ!先生。|龍鳳呈祥《ロンフォンチェンシャン》(いい兆候です)」

孔三元は嬉しそうだった。そしてまた繰り返した。

「龍鳳呈祥、きっとそうですよね、先生!」

 私は精一杯彼に微笑み返した。眼にいっぱいの涙を溜めながら。そうだ。私だってもちろん、その龍鳳呈祥をこそ願っているのだ。

【龍鳳呈祥 完】




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