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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 龍鳳呈祥(きっといいことがあるさ)(9)

 
 そのとき、ちょうど夫が帰ってきて、小躍りしている孔三元ともう少しでぶつかりそうになった。

 だが孔三元は愉快そうに、彼が肩から提げている蛇の入った竹籠を夫に指し示し、嬉しそうに話している。

「ちわっす。楊先生。こいつらは私の命を救う毒蛇たちですよ。九匹もいます!」

 夫は冷ややかに眉を顰めて言葉も掛けず、ただ肩ですれ違っただけであった。彼は家の敷地に入ってきて、私を見上げてぶつぶつ言っている。

「ふん。ものは言いようだな。命を救う毒蛇だと。所詮はただの毒蛇じゃないか」

 だが、まるで孔三元の快活さが私に感染しているようで、夫の言葉を聞いても怒りが生じてこないのであった。そして笑いながら受け流していた。

「当然でしょ。毒を以て毒を制す。これには科学的な根拠だってあるのよ」

 実際のところ、私は内心少しも楽観してはいなかった。時には心配、時には後悔、そして時には祈ってさえいた。だが、証拠となる本が見つかってからというもの、私の考えはがらりと変わった。私は自信百倍、心配は吹き飛んでいた。

 その後、私はちょくちょく孔三元の様子を聞いた。ただ一つ心配だったのは、私のやり方で思わぬ事故が起きたり、人を救うどころか、人を害することになってしまってはやはりまずい。

 毒蛇でらい病を治すのは、確かに危険な方法だったのだ。

 天は知っているはずだ。私がどれほど奇蹟の出現を待ち望んでいるか。そう、それは、孔三元の姿が変化することである。いずれにしても、私としてはこの「緩兵之計(遅延戦術)」が、多かれ少なかれ、恐怖を和らげる作用があればいいと思っていた。

 私はこのように恐々としながら日々を送っていたのだ。夫の言葉を借りるまでもなく、そのような事態は確かに面倒なことになるのはわかっている。だが大切なことは、当の孔三元にとって何が一番いいことなのかという点であって、私自身の煩悩は所詮、私自身の煩悩なのであった。

 夫はもうこの件をすっかり忘れているようであった。彼の生活はいろいろと忙しいのである。孔三元の生死などに割く暇もないのであった。

 こうしてしばらく日々過ぎていった。

 次の年の雨季がやって来た。私たちの二人目の子供が生まれてすぐに亡くなってしまったため、夫は何かと私のあり方にけちを付けてくるようなところがあった。私たちの冷戦はときどき白熱することもあった。

 そのときは、夫はどこかで徹夜して夜に帰宅しなかった。

 冷たい雨がしとしとと降り続く夜のこと、寒風も吹き始めていた。私の情緒は低下し、寂しさには勝てず、ベッドに座り込んでしまっていた。娘はすでに熟睡している。草屋の中はきんと静まりかえっていて、それがまたとても寂しく感じられた。あれもこれもといろいろなことを考え、恨みがましいことも考えたりした。一陣の悲しみに襲われて、私は思わず忍び泣いた。

 その寂しさが抑えきれそうもなくなってきた。そのとき、我が家の壁を通してだが、低い息づかいが遠くの方から聞こえてきた。

 私は一人、この静寂の中で聞こえてくるこの息づかいに慄然とした。本能的に泣くのをやめ、息を殺してその音に耳をこらす。だが外からは何の音も聞こえなくなっていた。

 おそらく風が通りすぎた音に違いなかった。ちゃんと聞いていたわけでもないので、誤って人の吐息に聞こえたに違いない。そう考えると外のことは気にならなくなって、また元のように自らを憐れんで泣き始めたのであった。

 どのぐらいそうして泣いていたことだろう。私はまた外から聞こえてくる人の息づかいを聞いた。心の中に積もり積もったさまざまな思念怨念は、涙とともにだいぶ流れ去っていったようであった。私は泣き疲れるほど泣いたあと、徐々に平静を取り戻してきていた。

 私は声を張り上げて誰何した。

「外にいるのは誰なの!」

 誰からも返事がない。だが、荒く乱れた吐息だけが聞こえてくる。

 「一体誰なの。どうしてそこで縮こまって返事もしないのよ!」

私は声を荒らげて、自分自身を勇気づけた。

 ついに、何者かが咳払いをした。

「先生。私です。孔三元です」

そう話す声がおかしい。鼻が詰まっているような、風邪とも違う、ひとしきり泣いたあとのような声であった。

「あら、あなただったの。孔三元。どうして早く私に声を掛けてくれないのよ」

私は自分の苦しみも忘れて、慌てて涙を拭くと、ベッドから飛び起きて門を開けに行った。

 外では孔三元が鼻をずるずるいわせている。

「先生。出て来てはいけません。私はまた明日お伺いします。時間も遅いことですし、旦那さんがいらっしゃらないと、あとで人の噂にもなりますし」

なんとか声を出したかと思うと、彼は私を制止したのであった。

「別に気にしなくていいわよ。あなたのことだって、どうせ誰かが言うでしょう。夫の好きにさせておけばいいわ」

私はすでに灯油ランプをもって出て行き、家の扉を開けた。


龍鳳呈祥(きっといいことがあるさ)(10)最終回へ




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