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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 龍鳳呈祥(きっといいことがあるさ)(7)

 
 夫がテーブルの回りを行ったり来たりしているので、彼が顔に掛けている眼鏡が私の前を行ったり来たりする。そして、眼鏡……、眼鏡……、

「眼鏡蛇(コブラ)。そうよ眼鏡蛇!」

私は眼の前がぱっと明るくなって思わず叫んだ。

「なんだと、おまえこんどはおれのことをコブラのようだというのか?」

夫は鼻にかかった眼鏡を持ち上げて、また私を罵り始めた。

 私は彼をしばらく見つめていて、彼が何を誤解しているのかがやっとわかったのであった。だが私は興奮している。

「違うわよ。あなたのことを言ってるんじゃないわよ。私いまやっと思い出したの。あの呉伯伯が言っていたのは、コブラで鶏を煮ると、らい病に効くということだったのよ。なるほど、コブラだったのか」

私は大きな声でそう言うと、包丁を置いて外に飛び出した。

「おまえ、おまえまさかそんなでたらめを言いに行くんじゃないだろうな。飯をそのままにすれば焦げるじゃないか」

夫は怒りを抑えきれずに私の背中に向かって吠えた。

「私は孔三元に教えてくるのよ。コブラと煮るって!」

 私はサッカー場まで一気に駆け抜けて、そこにいる人たちに聞いたが、みな一様に孔三元を見ていないという。仕方なく戻ってくるほかなかった。

 夫は焦げてしまった飯を手にして私を見ている。恨めしそうに、「くそったれ。気違い女がこんどはらい病狂いか。まったくどいつもこいつもどうかしている」

 狂っているって?とんでもない。狂ってなどいない。

 私は中学一年の保健体育の教科書を手に取り、その中の一節、毒蛇に噛まれたときの救急救護の一説を読んだ。口で毒液を吸い出す、とある。

 さらに、ひもで綴じてある破れかかったもう1冊の本には、毒蛇の肉は甘みがあり、滋養強壮に効果ありと記されている。この状況から見て、毒蛇の毒液は血管に入ったときだけ有毒なのであって、食道から摂取する分には問題がないのであった。

 さらに、私は最も大切にしている名著のうちの一つ「古文観止」を手に取り、その中の|柳宗元《リゥツォンユァン》の一篇の文章「蛇を捕えた者の言」に注目した。そしてその冒頭にはこうあった。

「永州の野は珍しい蛇を産する。黒いものや白いもの、これらに触れた草木はみな枯れる。人が咬まれれば防ぎようがない。これを狩るときは餌を使って罠を仕掛けて取る。大風、攣腕、瘻、癘、筋肉の病、毒消しに用いる!」

 この中の「大風」というのが、即ちらい病のことである。

 毒蛇がらい病に効く。これは確かに書に述べられていることなのだ。

 私は証拠を見つけ、その部分を大喜びで夫に見せた。

 夫は木偶のようになってまともに反応しようともせず、何も考えずに決めつけた。

「おまえ見ただろう。毒蛇が触れた草木はみんな枯れる。人が咬まれれば防ぎようがない。万一あの孔三元が蛇に咬まれたらどうするんだ?」

「彼はそこのところは気を付けるわよ」

私は自信たっぷりに答えた。極限状態での生き残りを賭けた人間だ。絶対にいい加減なことなどしないはずだ。

「ふん。あいつがらい病で死ぬのはあいつの問題だが、おまえが何か手出しして、それがきっかけであいつが蛇に咬まれて死んだらおまえのせいになるんだぞ!」

「あなた、少しはまともに話せないの?心根が汚いわよ」

 私もむかついてきた。いまはお喋りより行動だ。こんなところで議論をしていても始まらない、やってみようじゃないか。

 あとで知ったのだが、孔三元は以前焼身自殺まで考えて、直前で思いとどまったことがあるらしい。彼がすでにガソリンをかぶって火を付けようかというときに、優しい人が声を掛けてきて、いろいろと説得して思いとどまらせたという。それに、誰が彼に伝えたかは知らないが、確かに私の父は有名な漢方医であったし、兄は西洋医学の医学博士である。こうして彼は前線から戻ってきて、生き残りを賭けてこの機会に身を投じたのである。

 その夜は一晩中眠れなかった。私は孔三元が毒蛇に咬まれやしないかと本当に心配だったのだ。果ては、こんな方法を教えるんじゃなかったと反省する一面もあった。

 だが一度口に出したからには、まっすぐに、とことんやらなければいけない。孔三元は天が崩れてきても諦めずに信じ続けるだろう。後戻りは出来ないし、彼が失望するのも忍びない。


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