シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 枇杷樹下驚魂記(枇杷の木の下で)(6)

 
「木の上よ、木の上っ!」私はそう言いながら自分の眼鏡を取りに行った。

 私は眼鏡を掛けてもう一度見てみた。やっぱりあの黒地に黄色い斑点の大蛇だ。昨日叩き殺した蛇にとてもよく似ているが、どうも昨日の蛇よりも太そうだ。その蛇の凶悪な眼は、じっと下を眺め回している。その凶暴な表情は喩えようがない。

 それを見た夫は「くそったれ。たぶん昨日やっつけた蛇の旦那が仇を討ちに来たんだ!」と毒づいた。

 私はすぐに家に入って熟睡している娘を抱きかかえ、命懸けで突っ走って大声で助けを求めた。

 祥林さんはライフル銃を持って駆けつけてきたが、不思議なことに、夫か妻かは定かでないその蛇は、夫が監視している最中にもかかわらず、どこへともなく消えてしまったのである。おそらく、天は彼がどのように監視していたか知っているはずだ。

 祥林さんは笑いながら、

「何が蛇だよ。あんた方二人の驚きようったら、もう尋常じゃないよ。二人とも近眼だから、きっと見間違えたんだろう」

 夫はこうした邪なもの信じていると思われるのが嫌なのだ。なので、自分が寝覚めで寝ぼけていたために見間違えたのだと考えた。それで、私がでたらめを言った、睡眠を妨げられたと、こんどは私を責めてくるのであった。

 おじさんとおばさんは、この話を聞いて、それは死んだ蛇の霊魂が成仏せずに、またこの世に現れたのだと言っている。

 だが、それが真実であるか否かは今議論すべき問題ではない。私はただ、このことを軽視せず、いつも備えていることが大切だと思った。子供のが家の回りで一人好き勝手に遊ぶままに任せるなどということがあってはならないのであった。

 それから数日間、私の心配は大きくなって、それが幻か真実かに関わらず、寝るにも食事をするにも安んじていることができなくなっていた。憔悴して痩せ始め、食事もろくに味がしない。

 やがて週末になった。私は肉を叩いて挽肉にして、気合いを入れて小麦粉を練り始めた。食欲増進のために、小籠包を作り始めたのである。

 午後三時頃に夫が帰宅した。火を入れて、一個目の蒸籠が蒸し上がった。小籠包を一つ取り出してかじってみると、香りもよく、なかなかの出来映えに食欲が甦ってきて、味わいながらも次々に食べていった。

 二つ目の蒸籠を火に掛けたときに、いきなり強い風が外で吹き始めた刹那、空いっぱいに鳥の群れが舞い上がった。谷間の凹みを夾んで遠くを見ると、私たちの学校と、最近ブルドーザーで造成したサッカー場の上に、その鳥たちはびっしりと群れをなして空飛ぶ龍のように飛び回っている。

 私たちの草屋もその狂ったような風のために揺れに揺れた。私は子供を背負い、

「楊林、すごい風よ、家が吹き飛ばされちゃうわ」と言った。

 夫は食べかけの包子を一個飲み込み、喉をごくりと鳴らし、すっきりと飲み下してから言い返した。

「何を怖がることがある。この家はこのぐらいの風では吹き飛びやしない」

 だが、彼の言葉が言い終わらないうちに、頭上が急に明るくなったかと思うと、あとはスローモーションのようであった。茅葺きの屋根と骨組みが少しずつめくれ始めた。やがて、強風はまるで見えない大きな手のように、屋根と骨組みをはぎ取ってしまったのであった。雨水が桶をひっくり返したかのように家に入り込んでくる。


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