シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 枇杷樹下驚魂記(枇杷の木の下で)(5)

 
 一方、夫のほうは妥協する気は微塵もなく、構わずに叫んでいる。

「はたき殺せ、とにかくはたき殺して酒のつまみにしてやるんだ。この蛇野郎、殺されなければ諦めずに何度も出てくる!」

 大蛇はばたばたと無情に追い立てられて、天窓から屋根に逃げていった。だが二人はさらに追い立てて行くのであった。

 彼らが右側から追い立てると蛇は左に逃げ、左側からはたけば蛇は右に躱す。まるできりがないのであった。攻める側もすっかり疲れ切っており、いつの間にか観衆もどんどん増えてきている。

 一時間ほど経っただろうか。蛇はずっと屋根の上に身を躱している。人間の方は、下で必死に駆け回っている。

 二人は手分けして一方ずつ守っている。そしてさらに猛攻撃を加えた。だが、蛇もなかなか狡猾であった。何事もないかのように屋根の真ん中あたりに逃げ込んだところを見ると、どうやらあの野枇杷樹の上に逃げ込もうとしているようである。

 そのとき、棍棒を手にして中学三年生の十数人の男子生徒たちが援軍に駆けつけた。彼らは相手が牛だろうが虎だろうが、とにかく怖いもの知らずである。しばらくの攻防の後、大蛇はついに討ち取られたのであった。

 夫と祥林さんはこうしてついに蛇スープにありつき、その援軍の男子生徒たちもご相伴にあずかったのであった。

 おじさんとおばさんは、顔に憂色を浮かべながら、私にこっそりと耳打ちした。

「あなた、気を付けるんだよ。家に入ってきた蛇を叩き殺してしまったんだからね。きっとなにかよくないことが起きるわよ」

 私は確かに迷信に多少は同化されてきてはいたが、迷信を救いがたいほど深く信じて疑わないというほどのこともない。いちおうこの言葉に軽く頷いて同意して見せたが、心の中では、とても幸運であると思っていた。あの蛇はついに退治したし、禍は取り除かれたのである。当然、蛇の霊が、本当に私たち人間の命を贖いとして求めてくるなどとは、とても信じていなかったのである。

 だがしかし、信じられないような出来事は、それから次々と起こり始めたのであった。

 蛇を退治したその翌日。私はいつものようにベッドから起き上がると、まず家の扉を開けて山野の景色をひとしきり眺めた。五月の早朝、空気は新鮮で甘い香りを含み、周囲の緑は薄い靄に柔らかく包まれていて、その美しさはすばらしい。斑模様の羽根を付けたつがいの小鳥が扉をかすめて、あの野枇杷樹の上に飛び去った。

 私の視線は一心に梢の節々を追った。視野は朦朧としているが、一本の太い枝の上に、黒と黄色の斑模様が蠢いているのが見える。私は一瞬凍った。もしやまた……。私は眼鏡を掛けていなかったのでよく見えなかった。眼を細めてもう一度見てみる。おそらく……、いや、だがはっきりしない。私は大声で叫んだ。

「楊枝!早く起きてきてよ。樹の上にまた蛇がいる!」

 夫は嫌々ながら起こされてベッドから這い出てきて、大きなあくびをした。そして、眼鏡を掛けて首を伸ばして様子を窺いながら私に聞いた。

「どこだい?もしかして、おまえの神経過敏じゃないのか?」


枇杷樹下驚魂記(枇杷の木の下で)(6)へ





関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR