シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 枇杷樹下驚魂記(枇杷の木の下で)(2)

 
 「どうしよう。どうしよう」

私は驚きのあまり気がすっかり動顛し、顔の筋肉も引き攣っている。

 「ライフルでやっつけよう。撃ち殺して蛇の羹を作って食べようではないか」

|祥林《シャンリン》さんは血気盛んである。

 「だめっ。殺してはだめよ!」

そば屋のおじさんとおばさんが私たちを止めながら言う。

「蛇が家に入ってきたら殺してはだめなのよ。紙銭を持ってきて燃やしなさい。蛇に自ら立ち去ってもらうのよ」

 タイの山岳地帯に住む人々には、鬼神の類を信じる迷信の民がほとんどである。おばさんが家に戻って紙銭を持ってくると、おじさんはその木の下でそれを盛大に燃やし、一方でなにやらぶつぶつと念じている。そして私には石と石をぶつけて三拍子のリズムを取るように言い、大蛇が自ら去るようにあらゆる手を尽くした。

 周囲に促されるまま、私はびくびくしながらも大蛇の近くに来るしかなかった。木の下に立つと、背筋の奥から震えが来て、全身に悪寒が走る。鳥肌が立って冷や汗も出てきた。なんといっても、この大蛇が枝の上からそのまま下に飛び降りてくるのが一番恐ろしい。

 もし撃ち殺すことができなければ、実は我々にはまったく打つ手がないのであった。この大蛇が少しでも早くここから立ち去ってくれるように願い、私はただ石を連打してひたすら三拍子の音を響かせるしかないのであった。

 だが不思議なもので、私が起ち上がると、紙銭も全部燃やし終わっていないうちから、その大蛇はゆっくりと動き出したのであった。やがてそのまま木を伝って這い降りてくると、我が家の向かい側にある草むらへと消え去って行った。蛇の通り道となった部分の雑草がきれいに倒されている。

 みな何も起こらなかったことを幸いと喜び、軽やかにそれぞれの家へと戻っていった。

 夫は仕事から戻ってきてこの一件を聞くと、大いに嘲笑している。

「アホか。石をかちかち鳴らして蛇を動かすって?そんなもの鉄砲で撃ち殺してしまえば一発じゃないか」

 私は慌てた。

「でたらめを言うのも大概にしてよ。蛇に聞かれたらどうするのよ。また戻ってくると面倒なことになるわ」

 夫はまた大笑いした。

「おまえいつからそんな迷信深くなったんだ。何を恐れることがある。おれが言いたいのはなぁ……」

さらに、芝居っ気たっぷりに声を上げた。

「やい、蛇の精。おまえに警告しておく。おまえがまたやってきて騒ぎを起こすなら、おれがおまえをぶっ殺して、細切れに刻んで、焼いて炒めて、煮物に炒め物、それから肉餅を作って酒のつまみにして全部平らげてやるからな!」

「無駄口男!」

私は苛々していた。かといって、私にしても何もしないというわけではなかった。何人かのアカ族を呼んで、家の周囲の草を刈り取ってもらい、蛇などが隠れられないようにした。


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