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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 芳鄰(佳き隣人)(9)

 
 私は首を何度も横に振って哀願するように言った。

「ヤングードゥー、何があっても子供を売るなんて考えちゃだめよ。あなたたち夫婦は、阿片さえやめれば、子供たちを養うなんて何の問題もないじゃない。親子が一度別れたら、次はいつ会えるかもわからないのよ。それはこの世で最も辛いことだわ。子供を売る前に、早く阿片を断ち切るのよ!」

 「先生。もし私が阿片をやめられるのなら、とっくの昔にやめていますよ。でも私はね。九歳の頃から吸い始めていて、今ではもう三十年以上吸っているんです。もし三日吸わなければ、私たち夫婦はすぐに血を吐いてしまうんですよ。もうすでに試したことがあるんです」

 ヤングードゥーの言葉には鬼気迫るものがあった。

「先生。お願いですからうちの娘を買ってやってくださいよ。私は先生が悪い人じゃないことを知っている。だから、先生になら、安心してこの子を売ることができるんです。千バーツ、いや、八百バーツでもいいです。お好きな値段を仰ってください」

 八百、千バーツで一人の人間が買える!このような人身売買は、タイビルマ国境地帯では、決して珍しい話ではないのであった。アカ族、ラフ族、リス族……。阿片の値段がつり上がるたびに、あるいは、凶作のたびに、彼らはこのように自分たちの子供を驚くべき安い値段で他人に売り渡すのであった。こうした可哀想な子供たちは、人に買われていったあと、普通の暮らしが待っているわけではない。牛を飼ったり柴を刈ったりとさまざまな苦しい仕事をさせられて、一生他人の奴隷となって生きていくことになるのだ。

「だめよ、だめよ。私はあなたの子供を買うことなんてできません。ヤングードゥー、あなたたち、またメーサロンに戻ってこない?私たちは水溜の近くに新しい家を建てたの。だから、今住んでいるこの家はあなたたちに差し上げるわ。こっちへ来て働けば、あなたたちはなんとかやっていけるわよ」

 もともと彼らが住んでいたあの潰れかかった草屋は、古くなりすぎて本当に潰れてしまっていたのである。

 ヤングードゥーは喜びの表情になった。

「本当ですか?」

「うそなもんですか。私たちのこの家の敷地にはバナナをたくさん植えてあるわ。バナナが熟したら、それを私たちに売ってちょうだい。市場と同じ値段で買ってあげてもいいんだから。このバナナの木だって、家と一緒に差し上げるのよ。それに敷地にはまだ余裕がある。他にもトウモロコシを植えてもいいし、鶏や豚を飼ってもいいじゃない。どう?」

 ヤングードゥーは嬉しそうに約束してくれた。そして、娘を売る話は二度としなくなった。しばらく座っていたが、娘を連れて一緒に去っていった。

 私たち家族が新居に移ったあと、ヤングードゥーは一家を連れてまたメーサロンへ戻ってきた。

 このころ、世界的な麻薬撲滅対策のせいで、阿片の生産量が激減していた。黄金の三角地帯の阿片の価格は大暴騰して、今では数倍になっていた。貧しい山岳民族たちは、この急激な変化で阿片吸引を諦めざるを得ず、もしくは、阿片を買うお金に困り、多くの人間が禁断症状から吐血して死んでいった。

 そしてヤングードゥーもまたこの時期、一月も経たないうちに、四人の子供たちを全員売り払ってしまったのであった。

 ある日のこと、ヤングードゥー夫婦が一人一つの籠を背負って我が家へバナナを持ってきた。彼らの額から籠に掛けたひもが深く食い込んでいるのがわかる。そして、夫妻は一人一匹ずつ子犬を胸に抱いている。

「あら、あなたたち、この子犬はどこかに売りに行くの?」

私はそう尋ねながら、手を伸ばして子犬たちを撫でた。

 それを聞いたヤングードゥーは一歩飛び下がって、いとおしそうにこの子犬を撫でている。そして小さな声で私に言った。

「この犬は売りません。この二匹の犬は、私たちにとっては子供同然なんです。売ることなんてできません」


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