シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 芳鄰(佳き隣人)(8)

 
 私は抑えることができず、ひとしきり大笑いしてしまったのであった。そして警官に言った。

「おまわりさん。この紙切れがどこから来たか、あなたは鄒冲に聞かなかったのですか?この紙切れは、昨日私がビニールにくるんで、うちの鶏の足に結びつけておいたものなんです。もし鄒冲がうちの鶏を盗みに来なかったとすれば、どうしてこの紙切れに気付いたんでしょうかね。これはまさしく、彼自身、語るに落ちたということではありませんか?」

 話のいきさつを聞いた警官は大笑いしながら言った。

「まったくもって、世間にはどうして鄒冲のような男がいるんでしょうかね。ここまで愚かな人間がいるとは。ちゃんと見えているのに、『ここには大金はありません』と言っているようなものじゃないですか。まあ、あの男の窃盗罪についてはこの際咎め立てする気はありませんが、あの男はさらにあなたを誣告罪で訴えたいと言ってきておるわけでして……」

警官はそう言うと、その紙切れを手にとって、そこに書かれた私の字を読み上げる。

「……鄒冲。この恥知らずの大泥棒。おまえはうちの干し肉を盗み、薪を盗み、鶏を盗んだ。おまえが他人のものを盗むことは、もう今後一切許されない。もし盗めば、私はおまえの醜い行いをすべて白日の下に晒すであろう。このよく肥った鶏は、おまえの最後の獲物と心得るべし!」

 だが実際のところ、もともと私は鄒冲への警告として、こうした紙切れを用意したに過ぎなかった。この悪人の方から先に警察に訴え出るなどとは、一体誰が想像し得たであろうか。もっとも、それによって鄒冲は自分で運んでいる石を、自分の足の上に落とすようなことになってしまったのだが。

 この一件は我々にとって、いつまでも続く笑いぐさになった。その後は明るく気分のいい日々が続いたが、鄒冲はこの一件ですっかり面子を潰されてしまい、それからというもの、あちこちで人を騙すようなことをしなくなっていった。

 この一件は、無実の罪を着せられて追い立てられた、あのヤングードゥーのことを思い出させた。そう思うと私の胸中には、彼に対する自責の念と不安がどんどん大きくなっていったのであった。遠くの方からメーサロンへ遊びにやってきた人から聞いた話では、ヤングードゥーの一家は|猛安《モンアン》へ引っ越していたらしい。私はこの機会を捉えて、彼ら一家に心から詫びたいと思っていたのであった。

 ある日の黄昏時のことであった。私は一人書斎に籠もって読書をしていた。すると突然何者かが我が家の敷地に入ってきて、入り口のあたりで声を掛けている。

「先生、先生!」

 私は頭を上げて一目見てみた。その入り口近くに立っている人は意外にもヤングードゥーであった。彼は年の頃七、八歳の女の子の手を引いて、恐れ多そうにかしこまりながら私の方を見ている。

「あら、ヤングードゥー。こちらに来てお掛けになって」

私はうれしさが顔からこぼれるようであった。

「私はもうあなたがメーサロンに来ないと思っていたのよ。この前の一件は本当にあなたたちに済まないことをしてしまったわ……」

「先生、そんなに気を遣わなくてもいいんですよ。小さいことはもういいじゃないですか」

ヤングードゥーは椅子に貼り付くように座りながら、訥々と話している。

「先生。実は、私はこの娘を先生に買ってもらいたいんですが、娘は要らないですか?家のことなら何でもやります」

 「私に…、あなたの…、子供を…、売る?」

 私はとても驚かされてしまった。それに、こうしたことには少々反感もあったので、つい眉を顰めた。

「あなた本当に自分の子供を売りたいの?どうして子供を売りたいの?あなたたち、子供を売るなんて話をしているのに、どうして平気でいられるの?」

「でも先生。うちの子供たちが私と一緒にいても、いいことなんか何もないんですよ。食べる物にも着る物にも不自由するばかりです。でも、子供たちをあなたに売れば、子供たちはとりあえずちゃんと食べられるし、着る服だってあるじゃないですか。ですから、結局子供たちにとっては私たちと一緒にいるよりよほどいいんです」

 ヤングードゥーは袖を引っ張って、流れ落ちそうな涙を擦りながら堪えている。その小さな女の子は為す術もなく、ただ彼の懐に抱かれながら、怯えた眼でこちらを見つめていた。


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