シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 芳鄰(佳き隣人)(6)

 
 鄒冲は私に耳打ちした。

「見てみなさい。この女、唇の色が変わっている。思い当たることがある証拠だ。さあ、我々は中に入って探しましょう。きっと見つかりますよ」

 しかしその女は否定した。

「私たちは人様のものをみだりに盗ったりはしません。信じないなら家捜ししてもらっても結構です!」

 鄒冲は彼女を睨み付けながら言った。

「ああ、もちろんそうさせてもらうさ。貴様らのような腐った山岳民族は、いつも人様のものをかっぱらって生きているに違いないんだからな!」

そう言い終わるとそのまま奥へ入っていった。

 私はいよいよ進退窮まってしまい、かなり狼狽していた。

 そして鄒冲が奥の方で大きな声で騒いでいるのが聞こえた。

「貴様ら見てみろ。これでもまだ人様のものに手を出していないなどとすっとぼけるつもりか。ではこれは一体なんなんだ!曾先生、早くこちらに来てみてみなさい」

 彼がそんなふうに言っているので、私はてっきり我が家の干し肉が出てきたものと思い、やはり私も見に行くべきだと思った。鄒冲は靴を履いたままヤングードゥーの家の床の上に踏み込んでいる。彼は衣服などが入った竹籠をひっくり返して中身をぶちまけている。床にはぼろぼろに破れた衣服が散乱している。

 部屋の中には吐き気を催すような阿片の匂いが染みついている。鄒冲に踏みつぶされることを恐れたのか、女は慌てて吸引道具をしまい込んだ。

 しかし、干し肉などどこにも見つからない。これは鄒冲が一人勝手に虚勢を張って喚いているだけなのであった。結局は、この家の貧しさを見せつけられただけの私は、この部屋を出て、そのままこの家を離れた。

 夕方になって、ヤングードゥーが仕事から帰ってきて、昼の出来事を聞きつけた。そしてそのまま我が家に駆けつけてきて、私にねじ込んだ。

「先生。あなたたちは読書人ではないですか。確かに私たちは教養のかけらもないかもしれない。でも、どうして罪もない我々を疑って、その上罪をげっちあげようとなさるんですか。私ヤングードゥーは、貧しさのために子供を売ることはあっても、人様のものに手を付けるようなことは決してありません。私の家で何を探したっていうんです?それで、何か見つかりましたか?もし何か見つかったのなら、私の頭をかち割っても構いませんよ!」

 このヤングードゥーが「しっかり者である」ことは意外であった。私は彼の言葉にただ狼狽しただけで、答えらしい答えもまともに返せないでいた。心の中では鄒冲に煽られたからといって、軽率にも口車に乗って、礼儀のかけらもないようなやり方で、鄒冲と共にヤングードゥーの家に乗り込むべきではなかったという自責の念に駆られていた。

 ヤングードゥーは私が耳の先まで真っ赤にして何も言えない様子を見て、さらに言い募った。

「あなたたちはまだわかっていない。私たちは確かに貧しい。ですが、人のものを盗むほど落ちぶれてはいないです!」

 ヤングードゥーが去った後、私は自分たちこそがとんでもないことをしたと思い知ったのであった。山岳民族はろくな自尊心もなく、人格らしい人格もない低級の人間で、彼らの自尊心と人格は、人が勝手に蹂躙するに任せておくだけのものであると、心のどこかでそう思っていたのではなかったか。無論、それは間違いである。彼ら山岳民族は、たとえ原始的で遅れた生活をしていても、詰まるところ同じ人間ではないか。

 そしてその夜、ヤングードゥー一家はわずかな家財道具をまとめ、知らぬ間にあの家を引き払い、どこへともなく消えてしまった。


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