シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 芳鄰(佳き隣人)(3)

 
 ある日の午後、学校での仕事を終えて家に帰る途中、|祥林《シャンリン》さんのコーヒー店の前を通りかかった。ヤングードゥーが彼らの店で水を汲んでいるのが見えた。桶一杯の水を汲んでくると二バーツだそうである。私はささっと駆け寄って祥林さんに言った。

「ああ、よかった。あなたたちは水汲みの人手が足りないで困っていたし、私はこれで幽霊を怖がらなくて済むわ。ヤングードゥーが家の裏に引っ越してきてくれてよかったわ」

「幽霊なんか出るもんかい」

祥林さんは笑っている。

「もっとも、すぐ近くに人が住んでくれると何かといいもんだがね。おたくの家の方はずいぶん人が少ないからなぁ」

「喜ぶのは早いぞ。阿片飲みのリス族なんて、手癖が悪そうじゃないか。気をつけるこった」

祥林さんの向かいに住む落ちぶれた一家、|鄒冲《スイチョン》さんが、私たちのそばでぼそぼそと言った。

「それはないだろうよ。ここは中国人が多い村だ」祥林さんが反駁する。

「それはないだって?結論を下すにはまだ早すぎるんじゃないか」

鄒冲は不機嫌な様子であった。

「もし信じないなら我々は賭けてもいいんだぞ。半月以内におたくらのものがなくなるはずだ」

 祥林さんの奥さんは彼と議論するのが馬鹿らしくなって、口を閉じたままであった。

 あまりにも自信たっぷりな鄒冲の言い方を聞いているうちに、私は自分の家の庭に五キロほどの牛肉を干していることを思い出した。私たちが昼間学校へ行くときに、そのままにして出て来てしまったが、あの干し肉は果たして無事であろうか。

 私は祥林さんたちに別れを告げ、そそくさと家に戻った。門を開け、干し肉のある場所を見に行くと、不幸にも鄒冲の言葉は的中していた。今朝買ってきたばかりの干し肉は跡形もなく消えていたのであった。

 鄒冲がその知らせを聞くと、すぐに怒りも露わに我が家へ駆けつけてきた。

「間違いない。あのリス族がやったんだ。信じないなら、やつの家に行って探してみればいい。絶対に出てくるはずだから」

「いいじゃないの。盗られたものは盗られたものなのよ。見つかったって、私は要らないわ」

 私は怒っていないわけではなかったけれど、腹を空かせているヤングードゥーの四人の子供のことを思い起こしてこのことは追求しないことにした。それに、人の往来だって少なくはないし、我が家の庭に通じる門には日頃から鍵がかかっておらず、出入りは自由なのだ。こうした情況なのに、どうしてヤングードゥーが盗んだと言い切れるのか。さらに言えば、彼が越してくる前にだって、ものは盗まれていたのである。

 鄒冲は私が言うとおりにならないと見るや、興味を失って帰って行った。


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