シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 芳鄰(佳き隣人)(1)

 
 竹壁に掛けてある灯りが寂しく燃えている。時間はもうすでに夜十一時を過ぎているだろう。夫の楊林はまだ帰宅していないが、間違いなく今日も麻雀に精を出しているはずだ。メーサロンにやってきてすでに一年以上経つが、私はこの山塞の夜を一人孤独に過ごすことにはまだ慣れていない。すべて音もなく静まりかえる夜に、偶然風が吹いて草木が動くと、私はそれだけで驚いてしまうのであった。

 人々が私に話してくれた。私たちの家の裏からわずか数歩の距離に、打ち棄てられて崩れかかった草屋がある。ある人はここで何度も老人の幽霊を見たといい、また、ある人はその老人の幽霊は草屋の中に腰掛けて、竹でできた|水煙管《みずぎせる》を取り出してぶくぶくと……、などと言い出すので、私は息もできないほど怖いのである。

 三歳の娘はすでにぐっすり眠っている。だが私はその幽霊のことが気になって気になって仕方がないので、おちおち寝付けもしないのであった。夫が麻雀に熱を上げて、妻子をほったらかしにしていることに、私はただ恨みがましく嘆くしかないのであった。

 そんなふうにいじけながら、私はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。そして、深夜に突然目が覚めた。豆粒ほどに小さな灯りが、冷たい風に煽られて揺れて、名も知らぬ鳥が谷間のほうで金切り声を上げるように鳴く。そんな具合になにごとにもびくびく震えているときのことであった。私は確かに何者かが水煙管を使うぷくぷくという音を聞いたのであった。脊髄から悪寒が遅い、冷や汗が全身にしみ出てくるようであった。

 神経過敏になってはいけない。私は自分にそう言い聞かせて慰めていた。だが、耳を澄ませて注意深くもう一度聞いてみる。風が止んだあと、確かにあのぷくぷくという音は、もっとはっきり聞こえてくるのであった。それに、ぷくぷくという水煙管と使う音だけではない。さらに、押し殺したような低い声で話す、何者かの声も聞こえてくるのだ。

 私は驚きのあまり息もできなくなるほどであった。神経の緊張はすでに、恐慌に近い状況となっている。

 雄鶏よ、早く鳴いてくれ。雄鶏が一鳴きすればそれはもう朝であり、あらゆる幽霊は消えてしまうはずだ。私は心の中でずっと祈りながら、腕時計を何度も見返していた。しかしすでに二時半とはいえ、明日の朝が来るまでにはまだやはりだいぶ時間があった。

 そうして戦々恐々としているときのことであった。強い風が吹いてきて、壁に掛けてあった灯油ランプの火を吹き消してしまった。部屋の中は真っ暗になり、粗く編んだ竹の壁の隙間から、そのうち捨てられた草屋の中に弱々しい光が明滅しているのが見えてきた。これはもしや、老人の幽霊が水煙管を使っている火が見え隠れしているのではないか。

 私は毛布を頭から被った。心臓が口から飛び出すとはこういう状態のことなのだろう。

 そしてまた一陣の風が吹いた。私は我が家の門がぎぎーっと開かれる音を聞いた。確かあの門はしっかりと閉めたはずではなかったか。「大慈大悲救苦救難観世音菩薩!」と、お経を唱え終わる前に、こんどは何者かの足音が聞こえてくる。そして足音は私のベッドのそばでぴたりと止まった。

 この謎めいた静けさ。私は耐えられなくなって、頭から被っていた毛布の隅をそっと持ち上げた。すると、驚くべきことにベッドの横に黒い影が一つ立っているのであった。

 「きゃー、幽霊だ!」

私は声にならない叫び声を上げ、もう気を失いそうであった。

 「気でも狂ったか。おれだ」

だが、意外にもその声は夫の楊林であった。彼はそう言いながらライターで灯油ランプに火を付けた。


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