シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 人蜂大戦(1)

 
 雲海のさらに奥にあるメーサロンに来た私は、すぐさま浮き世の埃と隔絶されたこの山塞が気に入ってしまった。

 三月に入り種まきの季節が訪れる。メーサロンじゅうの工農兵学商、身分を問わず、すべての家々では、家の周囲の雑草をきれいに刈り取ってしまう。そしてそのまま何日かおいて、雨季が来る前に山に火を放つ。雑草をすべて焼き尽くしたあと、種をまくことができる状態になるのだが、茶樹とコーヒーを植えてある畑以外は、ほぼすべての家がトウモロコシと陸稲の種を蒔く。

 私たち夫婦が八百バーツを費やして買い上げたこの草屋は、尾根の頂付近にあり、その背後には広大な丘陵地が広がっている。私の夫、楊林が立てた「瓜果満園(食べ物がたくさん実る園地)」計画を実行に移すべく、私たちは学校の授業がない空き時間を利用してこの荒れ地を開墾し、一面のトウモロコシ畑を作ろうとしていたのであった。

 刈り取った雑草や蔓草は、そのまま天日にしばらくさらして乾燥させておく。楊林は土曜日の夜に火を放って山を焼き、そのまま翌日の日曜日に種を蒔くことにした。

 土曜日の午後、夕食のあとに風の勢いが弱まってきたのを見届けて、楊林は薪を抱えて丘陵地の麓へ行き、山を焼くべく火を放った。三歳の娘は子犬を抱いて瓜棚の下に立ち、火の手が這い上がってくるのを待っている。

 私は夕食後の後片付けのため洗剤を泡立てて食器を洗っていた。そのとき、化け物に首を絞められているかのような夫の悲鳴が突然聞こえてきたのであった。娘も家の外で慌てふためいて騒いでいる。

「お母さん、大変。早く来てよ、お父さんが泣いてる!」

 私は手にしていた食器を置き、手に残っている洗剤の泡もそのままに、とにかく急いで外の様子を見に行った。丘の麓の方を一目見ると、はっきりとは見えないが、楊林が一人、でたらめに駆け回りながら両手を狂ったように振り回している。大声で騒ぎながら悪魔に呪われたかのように驚き、そして恐れ、ただひたすら逃げ惑っているような様子が見える。

 「あなた、どうしたの!蛇でも踏んだの?えっ、なに?聞こえないわよ。なんて言ってるの?」

そして私は

「ちょっと母さんの眼鏡を取ってきて!」と娘に命じた。

私は強烈な近視である。眼鏡をかけていなければちょっと離れた場所ですら、はっきりと見ることができない。私は仕方なく、できるだけ眼を細めて必死に丘の麓の方を見つめ続けた。

 「助けてくれ~。助けてくれ~」楊林はまだ叫び続けている。

 いったい何が起こったのだろうか。もしや幽霊にでも取り憑かれたのではないか。聞くところでは、私たちが住むこのあたりは、以前ラフー族が死者をあちこちに埋葬していた場所らしいのである。


人蜂大戦(2)へ




関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR