スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 断魂辣(魂が消し飛ぶ唐辛子) (7)

 
 その様子を見た宋さんが、大声で泣きながら叫んだので、ご主人までが慌てて飛び出してきて、豚たちを目の当たりにした。「しまった。こいつらは何かの毒に当たったようじゃないか。もしや、悪い奴が豚の飼い葉桶に猫イラズを撒いたのではないか」

 宋さんはそれを聞いて泣き出した。叫びながら必死にその悪い奴を罵っているようであった。「その道徳知らずの人間のくずは、いったい私たちに何の恨みがあるっていうの。こんなふうに私たちを苦しめるなんて。私が苦労して一年以上もかけてここまで大きくした豚なのよ!ああ、四匹はすべて大切な豚だったのに!そのどこにいるかもわからない大馬鹿野郎が、猫イラズを撒いてうちの豚を殺したっていうのね」

 私たちの家の間には竹垣があるだけで、その竹垣にある門のほうから彼女の泣き声が聞こえてくる。それもいつまでも、いつまでも辛そうに泣き続けている。私はまだ終わっていない食器洗いもそのままに、彼女を慰めに行こうと思っていた。まったく、世の中には腐った人間がいるものである。私が代わりに行って懲らしめてやりたいぐらいだ。

 だが、起ち上がった私は食器棚の上に置いてある「浸し唐辛子」を見て、頭を強く一発がつんと殴られたような衝撃を覚えた。もしや、その「道徳知らずの人間のくず」とは私のことではあるまいか。私はさきほどの家庭内のどたばたで、唐辛子のつけだれを、何も考えずに宋さんの豚にあげる残飯と一緒に捨ててしまっていたことに気付いたのであった。これはまた、おそろしくとんでもないことをしてしまったものだ。夫が言うように、強い硝酸水のごとき「浸し唐辛子」を食べた豚は、その辛さで五臓六腑が穴だらけになったのかもしれないのだ。

 宋さんがここまで豚を育てて来たのは、実際、並大抵の苦労ではないのであった。私は胸が痛んだ。やはりここは自分の罪を認めるべきだし、隠さず話して結果の責任は引き受けねばなるまい。

 宋さんは私が歩いてくるのを見かけると、自分の苦しみを訴えるべき相手が見つかったと思ったらしい。そして、さらに多くの涙を目に溜めて、鼻水まで流しながら滔滔と哀訴し始めたのであった。

「見てよ。人間のくずが私の豚に猫イラズを撒いて殺したのよ」

 私はおそるおそるその豚を一目見てみた。豚はすでに息絶え絶えで、生死の境をさまよっているようであった。一匹はすでに白目を剥いて、息も弱々しくなってきている。

「宋さん、それは猫イラズじゃないのよ。実は、浸し唐辛子なのよ」

私はもじもじしながら言った。

「お宅の豚は、うちの浸し唐辛子を食べてしまったの」

 「なんですって!いまなんて言ったの?浸し唐辛子ですって?それをとぎ汁と一緒に捨てたですって?」

宋さんはぴたりと泣き止んで、驚きながら私に聞いてきた。

 「実はそうなのよ……」私は正直に認めて頷いた。

 私が思うにそのときの私は悲壮な覚悟を固めていた。

 「もしお宅の豚が死ぬようなことになったら、私がそれなりの値段で買い取って弁償するから、安心してください」

 「あなた、浸し唐辛子で唐辛子のつけだれを作ったっていうの?それを木耳に浸けるって?で、いったい何本入れたの?」

 宋さんはとことん追求してくるのであった。まるで、豚のことなど忘れてしまったかのようであった。

 「ええと……」私の語気は弱まった。

 「五本入れてしまったのよ。私はこの唐辛子がそんな凄いものだとはぜんぜん知らなくて」

 「なんですって、五本も!」宋さんは思わず叫び声を上げた。彼女の様子は、今すぐにでも昏倒しそうであった。「信じられないわ。五本も入れるなんて……」

 彼女を慰めるために、私はもう一度同じ言葉を繰り返すだけであった。

「安心してください。私がきっと弁償しますから……」


断魂辣 (8)へ





関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。